やがてエルトナ大陸の東端に辿り着くと、このエルフの地を象徴する深緑の森に分離したドルバリオンを潜ませた。
時間の猶予が生まれた今だからこそ、どうしても早めに済ませなければならない事がある。
アカックブレイブの次なる懸念は、規格外のマシン系モンスター、すなわち、SBシリーズのことだ。
彼らのことを思うと、今なお、アカックブレイブは深い後悔に苛まれる。
交友を深めた、機械仕掛けの兄妹。
ユートピアの侵略は、彼らの運命をも大きく歪めてしまった。
真っ先に侵食を受け、侵攻部隊を率いる指揮官機となり果ててしまったハクギンブレイブ。
アカックブレイブを姐御と慕うハクギンブレイブの妹とともに、彼の自我を取り戻さんと手を尽くしたが力及ばず、ハクギンブレイブはとある戦場にてオーガの冒険者が率いるパーティに討たれた。
兄よりも後発の機体故に耐性のあった妹もまた、兄を失った精神的ショックによりユートピアの侵食を受けてしまい、次第に自我を失っていった。
かろうじて残る意識で、アカックブレイブに自らを破壊するよう訴えた彼女を、しかし破壊する事などできたはずもない。
やがて彼女はユートピアの手により地脈エネルギーを無尽蔵に吸い上げる特攻兵器へと作り変えられ、一番抵抗の激しかったオーグリード大陸をその命と引き換えの大爆発により焦土に変えた。
博士が事前にリストアップした、ユートピアの潜伏が疑われる箇所のリストには、ハクギンブレイブも含まれている。
全ての基地を破壊した後、それでもユートピアの殲滅に確証が得られなかった場合は、彼のことも、討たなければならない。
それは何よりも、アストルティアの民と共に歩まんとする彼自身の為と知りつつ、しかしそんな覚悟など、出来ようはずもない。
必ず、助ける。
失われてしまった全てを、取り戻す。
その為にこそ、過去へとやってきたのだ。
それ故、早急にガントレットを修理し、ユートピアの所在を詳らかにする必要がある。
ドルバリオンの完成度と気候から時期をおよそ逆算して、この過去の世界において唯一ガントレットを直せる可能性のある人物、博士はここ、アズラン近郊の秘密基地に居るはずだ。
脱出用の隠し通路から侵入を図るアカックブレイブの前に、小さな影が立ち塞がった。
壁に背を預け佇む、暗闇に光る真っ赤な2つの複眼。それはもはや懐かしくすらある、仲間の瞳である。
「………『1号』。そこを退いてもらおうか」
「やはり。偽物を、通すわけにはいかん」
右腕は腰溜めに拳を握り、左の抜き手が斜めに眼前を横切り空へ向かい伸びる。
ブレイブ2号は、偽物であると確証を得た目の前のアカックブレイブに対し、戦いの構えで返答した。
お互いに逃げ場のない、ひと一人が通るのがやっとのこの道は、後に退けないアカックブレイブを象徴しているかのようであった。
「ドルセリ…くっ…!」
「ブレイブ…キィィック!」
ドルセリン管をベルトに挿す間もなく襲い来る必殺の飛び蹴りを、前に飛び込み回避する。
「卑怯と罵るがいい!それでも、展開の隙は与えん!既にこちらの被害は甚大だからな!!」
続く背後からのパンチを、風の流れで見切って躱す。しかし僅かに掠った拳に、頬から鮮血が舞った。
基地を破壊したのだから、『1号』の行動は当然だ。むしろ、こうして待ち構えていたことは称賛に値する。
「………だが!私にも譲れぬものがある!!魔装、展開!!!」
キックを避けて前転すると同時、ベルトにドルセリンをチャージしていたのだ。
「正義を貫く、情熱の炎!!アカックブレイブ!!!」
魔装展開時のフレアから目を守るためにかざした指の隙間から覗く姿は、髪色を除けばまさしくアカックブレイブである。
そして、この一連の手合せで感じる手強さもまた、本物であった。
「…どういう事だ…?いやしかし、拳を交わせばいずれわかること」
ダイダイックブレイブとの会話記録の僅かな違和感。そして、こちらを『1号』と呼んだこと。
故に、目の前のアカックブレイブは、偽物であるはずだ。
しかし、もとを正せば、ブレイブ2号がアカックブレイブの行動を予測できたのは、ダイダイックブレイブとの戦闘映像中、攻撃を受けたわけでもないのに火花を散らすアカックブレイブのガントレットを見たからだ。
魔装の修理はおきょう博士にしかできない。
ならば誘拐なり何なり、直接の接触を図るはず。
それはすなわち、偽物であれ、内情に精通していることとなる。
(我ながら、色々と矛盾しているな)
説明のつかない状況を打開する為にも、再び悠然と構えをとるブレイブ2号であった。
続く