「ブレイブ…パァンチ!」
拳と金属の衝突によるものとは思えない鈍い音が響いた。
お手本のように脚から腰、胴から肩を通して膂力を余す所なく伝達され加速したブレイブ2号の拳がアカックブレイブの魔装具であるハンマーと真っ向からぶつかり合い、衝突の圧に空気が震える。
ブレイブ2号は専用の魔装具を持たないが、自称改造人間の鍛え抜かれた身体そのものが負けず劣らぬ武器となっているのだ。
「ブレイブ…反転キィックっ!」
拳とハンマーが互角であれば更なる一手、狭い空間を活かしてくるりと宙返り、天井を足場に自慢の脚力で勢いを付け飛び蹴りを見舞う。
さながらミサイルのようなキックを、さすがのアカックブレイブも僅かに退って回避する。
「やはり偽物!本物のアカックブレイブであれば避けはせぬ!!」
「言いたい放題言ってくれる!」
この狭い空間ではハンマーは分が悪い。
もとより狙いはカウンター。
ハンマーを手放したアカックブレイブは、キックの着地姿勢でやや前傾な眼前のブレイブ2号の鳩尾を目掛け、掬い上げるようなボディブローをお見舞いする。拳が綺麗にめり込み、浮き上がったブレイブ2号目掛けて後ろ回し蹴りで畳み込もうとした刹那、キラリとブレイブ2号の複眼が光る。
カウンターを狙っていたのは、お互い様だったということだ。
「…しまっ…!」
失策を悔いる間はアカックブレイブには残されていない。
ブレイブ2号は迫るアカックブレイブの足首を掴み引き寄せると、もう一方の掌はわしりとベルトを掴む。「ブレイブ…きりもみシュート!!」
ブレイブ2号は自らを上回るアカックブレイブの長身を、軽々と独楽のように回転させて投げ放った。
バギクロスに巻き込まれたように身体全体を急旋回させられながら、壁へと一直線に舞う。
とはいえその距離は1メートルとして存在しない。
しかしすぐさま鳴り響くはずの衝突の轟音は聞こえなかった。
アカックブレイブの姿が、文字通り掻き消えたからだ。
「消えた…。むう…」
アカックブレイブの消えた虚空を睨み、ブレイブ2号は首を傾げた。
消失の刹那、その身を包んでいた緑の光は、ルーラの光のように思える。
しかし、ルーラの際には現れることのない円環の如く連なる正方形の紋様に、何よりも天井のあるこの空間から飛び去ることなど、リレミトならいざ知らず、ルーラであれば天井にめり込んで終わり、不可能である。
更に思考を巡らせようとしたところで、ブレイブ2号ことソフラは痛みから眉をしかめ、膝をついた。
「ぐうっ…肋が折れたか…。この拳は紛れもなく…」他のメンバーの魔装よりも強靭なブレイブ2号の胸部装甲に加えて、鍛え抜かれた筋肉の壁を貫いた拳圧は紛れもなく過去に訓練のための組手で味わったセ~クスィ~のものと等しい。
文字通り、骨を断たせて骨を断つほか、やりようのない相手であった。
「…ともかく、博士とリーダーに報告だな」
直感に過ぎないが、相手は既にこの基地内には居ないだろう。
壁に手をつき身体を支えつつ、司令室へと歩みを向けるブレイブ2号であった。
続く