「否。確かに現在、私たち、ドルブレイブはこの女性から攻撃を受けています。しかし、それは恐らくは彼女自身に目的があってのことと感じるわ。第一に、コストに見合わない。セ~クスィ~を一人作り出す予算の分、爆弾を購入したほうがよほど効率的。第二に…」
おきょうが指摘しようとしたと同時、ケラウノスも自身の推論の穴に気が付き、後を継ぐ。
「アカックブレイブの強さはこれまでのセ~クスィ~本人の類稀なる研鑽と戦闘経験値によるものだな…。機械の尺度で推論を進めた。謝罪する」
「その通り。それと、大丈夫よ。悪気がないのは知ってます」
まず1つの線は消えた。
そも、『複製体』は生物としてオリジナルとは全く異なることまでは、流石の二人も知る由もない。
次の仮定を今度はおきょうが提議する。
「彼女がセ~クスィ~本人であると仮定し、私達のよく知る赤髪のセ~クスィ~をA、彼女をBさんとしましょう。当たり前のことだけど、同じ人間が2人存在する筈はない」
「その点に関して一つ。AとBとでは、生体経過時間が異なる。Bの方が5年ほど長く活動をしているようだ」
「Bが身に着けていた魔装ベルトもそう…Aの装備する現行の魔装ベルトよりも、数段は進歩しているわ」
治療にあたり、件の魔装ベルトはハクギンブレイブの手も借りて外させてもらっている。
すぐに診察に取り掛かった為、まじまじと確認はできていないが、その短い時間でも分かることは沢山あった。
「改良に使われているロジックは先進的だけど、何処か馴染みがある…。まるで、私が考えた仕組みであるかのように」
髪の色に、フタバを『ミク』と呼んだこと。
説明のつかない点はいくつか残るものの、議論の果て二人は、比較的、確度の高い結論として、同じ考えに至る。
それは…
「………そうだとも、博士、ケラウーノス。私は………未来から来たアカックブレイブだ」
魔装ベルトのくだりから薄っすらと覚醒していたBことアカックブレイブは、状況と会話の内容に、もはや隠し立てする状況ではあるまいと、二人に先んじて口を開いたのであった。
そしてその頃。
一度あったことはニ度あり、三度ある可能性がある。魔装ベルト諸共に破壊の危機にさらされたユートピアは、ここを離れることを決め、その前にいずれこの理想の身体を再建すべく、より深部まで分析を進めていた。
取り急ぎ退避先はアンテナを仕込んだドルバリオンが最適である。
先程接触したたけやりへいのカスタム機も捨て難いが、強固な防壁の存在を検知した為、断念せざるを得ない。
並行して転移の為の自らのパッケージ化を進めていたユートピアは、ベルトのシステム最奥に秘められた隠しファイルの存在に気付く。
施された厳重なロックも、ユートピアの前では紙切れに等しい。
事ここに至るまで、アカックブレイブの辿ってきた未来の出来事が、ユートピアの前につまびらかになる。
(ソウイウ事カ…。早急二、手ヲ打タネバ)
それがどんなに現実離れした事象であろうと、データは嘘をつかない。
おきょうとケラウノスがアカックブレイブより打ち明けられるのと同タイミングにして、ユートピアもまた、この魔装ベルトが自らを葬る為、アカックブレイブと共に未来から来たものであると知ってしまったのであった。
続く