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常闇のバシっ娘

レオナルド

[レオナルド]

キャラID
: QB020-044
種 族
: プクリポ
性 別
: 男
職 業
: 魔剣士
レベル
: 131

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レオナルドの冒険日誌

2023-05-16 08:58:38.0 テーマ:その他

蒼天のソウラ二次創作『福徳円満』

鶏が声をあげる少し前に目を覚ます。
朝の静かで冷たい空気は好きだ。
早朝からの料理の番は、当然ながら強制されたものではない。

「おはようございます、オスシ様」
厨房では既に幾人かの使用人が忙しなく働いていて、竈がふつふつと鳴き、糊をまとったあぶくとともに何とも芳しい白米の香りを漂わせていた。
カミハルムイの名家、義理でこそあれオスシは当主の妹である、当然の敬称ではあるのだが、こうして給仕に関わる上では彼女らは師にあたる訳であり、なおかつ尽くオスシより歳上でもあり、未だに『様』と呼ばれるのはこそばゆい。

挨拶を返すと、抱えるほどの大きさの鍋を弱火で丁寧に温め、沸騰の直前まで来たところで、『様』と呼ばれる気恥ずかしさで揺らぐ唇の形によく似た昆布を箸ですくい上げた。
昨晩からの水出しと、そこへ重ねた煮出しで昆布の旨味の存分に滲み出した鍋の中身は、目を凝らしてようやく錯覚かいなかという程にほんのりと琥珀とうぐいすの色彩をまとって、しっかりと出汁が取れていることを知らせている。

昼や夜であれば更に鰹を被せるところだが、そこまですると流石に朝には味が重たい。
豊かな甘みの合わせ味噌を溶かし、角切りの豆腐と、筒切りにした葱を加えて完成である。
具材はシンプルながら、豆腐の柔らかさ、筒切りにした葱は外側はしゃっきり、内側は汁の熱が通りとろっとして、それぞれの食感が織り成す味わいは底知れず深い。

朝食は白米と味噌汁、そして小鉢の組み合わせで成る。
長年に渡る使用人達の手ほどきにより、冷めず煮詰まらずの絶妙な火加減も手慣れたもの、味噌汁から離れ、小鉢の中身を選びに向かう。
厨房から繋がる納戸、『立ち入り禁止 特にヤマ』と張り紙のされたその中には、実に様々なご飯のおともが徹底した温度と湿度管理のもと、選ばれる時を待っている。

「…そろそろコレが良い塩梅になってる頃かな」
小ぶりの壺を一つ抱えて厨房に戻る。
木の蓋を開けば、優しい潮の香りが鼻をつく。
「うん、良さそう」
取り箸で中身を一片つまみ上げ、小皿に移す。
取り出されたるは、朝焼けで色付けたような鮮やかな鮭の切り身。
刺し身としてよりも更に小さく切り分けられたそれは、ルビーさながらのイクラの粒をあしらった塩麹のドレスをまとって艶やかに佇んでいる。

『鮭の塩辛』

オスシが漬け込む塩麹の配合から鮭のサイズに至るまで、研究に研究を重ねて完成に至った最強のご飯のおとも。
あまりの美味しさのあまり、空腹に耐え兼ねて厨房に忍び込んだヤマがこれをおかずに1升分の米を平らげてしまった魔性の逸品である。

そしてその魔力の虜となっているのは、勿論オスシも例外ではない。
「味見は必要。うん。念の為、念の為に、ね?」
言い聞かせるような独り言とともに、こっそり米を盛る。
箸を持ち替え、ぱくりと一口頬張った。

塩麹とあえる前、腐敗防止も兼ねて清酒に浸したことにより、表面がごくうっすらと強張り、タタキのような食感に加え、鮭本来の甘みをしっかりその身に閉じ込めている。
噛み切られることにより溢れ出すその甘み、そして塩麹の塩味とイクラの滋味が織り成すハーモニー、それを優しく受け止め、共に高めあっていく白米の旨味。ヤマのつまみ食いの度が過ぎてしまったのも、やむなしである。

「オスシ姉さん、鮭の塩辛はもう作らないの?」
朝食の席、いつもの『スシ姉』ではなくしゃちほこばった呼ばれ方でオスシは幸せな味の記憶から意識を取り戻す。

結局、今朝の食卓の小鉢には、ホタルイカの沖漬けが納まっていた。
「ああ、うん、そのうち、ね」
「やった!へへ、楽しみだな~」
朝食を共にする長姉いなりをはじめ、門下生や使用人達の手前、呼び方は気を付けども、嬉しさが溢れて妹ヤマの口調が砕ける。

(ホントは何度も作ってるんだけどな…)
味の確認の為のちょっとしたつまみ食いのつもりが、使用人の皆とともにすっかり平らげてしまった。
食卓に並ぶはずの鮭の塩辛の消失が今朝に限らず度々起こっている事は、いなり家の朝を任されている人々だけの秘密である。
                     ~完~
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