意表を突かれ変な声をあげてしまったが、冷静にモニターを観察すれば闖入者の正体は窺い知れる。
ココソーの世界において、第一次ドルセリオン奪還作戦失敗の後、メンバーを欠いたドルブレイブにより完成状態で運用されたものの、空飛ぶ拳しか武装を持たぬ木偶、スーパードルセリオンの敵ではなく、呆気なく撃破された代物だ。
「そもそも敵わなかった兵器、それを未完成のまま引っ張り出すとはな。随分と必死じゃあないかココソー」
操縦席の特殊スーツの男に見覚えはないが、その意匠は何処か、かつて袖振り合った少年の作に近いものを感じる。
慌てふためいている様子から整備不良による機能停止に陥っている事を察して、ため息とともに巨大な背もたれを持つ椅子に沈み込んだ。
これでは流石に、せっかく造ったボディの出番はあるまい。
いや、あっては困る。
ドルバリオン、ひいてはスーパードルセリオンもまた、ケルビン自慢の作品である。
その敗北はまた、ユートピアだけでなくケルビンの技術の敗北でもあるのだ。
「………ん?何故そこで退く?」
本人はけして認めないが、ケルビンとて誤算は多々ある。
意志を持ち、伝染するプログラム。
それはもはや、ひとつの生命体である。
ココソーとセ~クスィ~が違うように、プログラムであれ、ユートピアもまたケルビンがベルトのデータから知った物と異なることを、ケルビンは失念していたのだ。
確かに、相対するは平行世界の自身が撃破したとされる兵器である。
しかし、姿形が違う。
ココソーの転移を許したことは、平行世界のユートピアの最大の失策である。
ユートピアはその情報を獲たことで、より完璧な安全策を求めるようになっていた。
オイルの焦げる臭いに、立ち昇る煙、さらには不自然で不安定な姿勢での硬直。
何処からどう見てもマシントラブルによるフリーズを、油断させる為の罠ではないかと勘ぐる。
手駒はまだまだ、無尽蔵と呼べるほどに残っている。ここは退くべきだ。
そうしてビッグFから距離をとり絶好のチャンスを逃したことが、ユートピアの最大の敗因となる。
ドルブレイブの面々がアカックブレイブを先頭に敵陣を切り開き、ビッグFが後に続く。
「おっしゃ!射程距離!!捉えたぜぇ!!」
フィズルとともにこれまで組み立てできた機体、当然ながらその仕様はマージンの頭にも、然と刻み込まれている。
ユートピアがありもしないビッグFの秘められた兵装を疑い手をこまねいている間に、唯一の武器の射程圏内まで、両者の距離は縮まっていた。
「実は一回、やってみたかったんだよな!唸れ爆炎!ロケットォ…パァンチ!!」
自分が飛ぶのは経験済み、というか二度とやりたくはないが、それとこれとは話が違う。
腰の動きと連動する回転グリップを限界まで引いてから突き出す勢いにのせて、分離と点火、2つのトリガーを同時に引く。
ガキンと音をたてて肘の関節軸がパージされ、さながら大砲の砲身のような前腕パーツが充填されたギガボンバーの爆発による火柱を噴き、それを推進力と変えてスーパードルセリオン目掛けて一直線に飛翔………しなかった。
「ふぁっ…!?」
わずかに宙を進んだあと、急勾配の放物線を描いて拳は落下、猛スピードながらも地面の抵抗を受けてまるで大蛇のように蛇行を繰り返しながら次第に速度を落とし、コツンとスーパードルセリオンの爪先にソフトタッチするに留まってしまったのである。
『あ~………重量過多だなぁ。やっぱりあかんかったか』
フィズルは地を削る鉄拳を安全圏から双眼鏡で確認し、握り飯を齧りながら、のんびりと分析した。
『いやほら、急拵えで盾とかつけたから、な?ええと、ほら、あれだ………まあその、いわゆる…すまん!!!!!!』
スローな語り口に加えて、時折、もっちゃもっちゃと握り飯を咀嚼する音がなおマージンを苛立たせる。
その背後から、同じくおにぎりを頬張っているらしいフタバの声がかすかに聞こえた。
おにぎりの具は、焼きたらこだそうだ。
続く