※占い師職業クエストをベースとしており、ネタバレを含みます。ご注意、ご了承ください※
催眠状態から脱したユクは、そのままポーチに収まるタロットの山札に手を伸ばす。
指先に触れる前から、このあと自分が引き当てるカードが何かわかる。
ユクは未来が自分に付いてくるような全能感の中、未だ目眩から跪きながらも身体を起こし、タロットカードを振りかざす。
山札から3枚を引き抜くゴールデントリン。
順に導かれた『愚者』、『塔』、『罪人』の3枚のタロットが空に浮かび、正三角形を描き出す。
最大限に効果を増幅した雷をまとう紫炎のエネルギーによる一撃が、ユクの覚醒に驚いて狼狽えるままの蜘蛛女をしたたかに打ちすえた。
「アルカナ・セラピア…これで皆が幸せになれるというのに…どうして…わかってくれないの…」
心の底から理解出来ないと呟きを残し、蜘蛛女の姿が薄れていく。
同時にあたりはもとの村長の家へと戻り、ゴトッと音を立てて転がったピュアパールがユクの目の前で真っ二つに割れた。
「…これで解決…でもないよね」
この村の住民たちの精神支配はこれで解除されるだろうが、あの蜘蛛女に関しては、手応えが恐ろしいほどに軽かった。
先程遭遇したのは術師本人ではなく、ピュアパールとやらに残された思念体にすぎないのだろう。
しかしながら、黒幕に関しては何の手がかりもない。
「とりあえず占ってみるかぁ」
ピュアパールの残骸を依り代にカードを手繰るが、ワンオラクル、ツーオラクル、スリーカードにシンプルクロスまで占っても、蜘蛛女相手にあれほど冴えわたったはずのドローが、今度は意味を成すことはなかった。
それでも何とか糸口を掴もうと、タロットで導こうとした先をインパスで垣間見る。
本来、インパスは色のイメージしか見えないはずである。
しかし、思わず笑みがこぼれてしまいそうな蒼天の青の中、柔らかに微笑む精悍な顔立ちのオーガの少年の姿が、はっきりと浮かんだ。
ああ、大丈夫だ。
きっとその冒険は、ユクではない誰かが辿る運命なのだろう。
あたりはすっかり、夜が明けていた。
ピュアパールによる精神支配から解放された村の人々は一様に意識を失ってあちこちに倒れていたが、その安らかな表情と穏やかな寝息を見るに心配は無さそうだ。
酒場に向かえば、少女と女将さんが笑顔で出迎えてくれた。
「…何だかまだ頭がはっきりしないんだが。随分と迷惑かけたみたいだねぇ。娘から聞いたよ。ありがとう」
女将さんの腰には、バンドで丁寧に結わえた想い出のタロットカードが下がっている。
それを見てようやくユクは胸を撫で下ろす。
「あたし、将来お姉ちゃんみたいな、凄い占い師になるね!」
「うんうん、その時は占ってもらいに行くからね~」いつまでもこちらへ手を振る少女に、千切れんばかりに腕を振って返礼した。
将来有望な少女との出会いは収穫だったが、思わぬ道草をくってしまった。
素敵な歌に彩られた優雅なバスタイムが待っているのだ、旅路を急がねば。
続く