※『フォーチュンウィルカムトゥルー』の後日譚にあたります※
始まりあれば終わりあり。
家に帰るまでが遠足。
往路と復路。
つまりは何が言いたいかというと、酒場の母娘とあれだけ劇的な別れの挨拶を交わしたユクは、翌日にして再び二人のもとを訪れていた。
他に旅路の途中に程よい宿場が無いのだから致し方ないとは言え、扉をくぐるのは相当に激しい気恥ずかしさとの戦いとなった。
「…さぁ、姉ちゃんの運命を選んで」
裏を向けてテーブルに並んだ7枚のカード。
真ん中の一枚をユクは裏返す。
「『女帝』のカード。これはね~、母ちゃんのとびっきり美味しいワッフルで、お腹いっぱい幸せになる未来を暗示しているよ!」
「…ハードルを上げるのはやめとくれよ」
女将は溜め息をこぼしながらも娘の占いを待ち受けていたかのように、皿にのせた焼き立てのリエージュワッフルをユクに給した。
「わぁ!!」
ユクが得意とする防御の型、ファランクスのカードスプリットのように正方形のくぼみが規則正しく並び、まとう純白の粉砂糖のファンデーションが熱でわずかに溶け、琥珀色のきらめきを放っている。
たまらずナイフで端1列を切り取り頬張れば、サクサクとしたクリスピーな食感の中に、熱に晒されても溶けず形を留めるパールシュガーのカリッとしたアクセントと弾ける甘みが舌の上で踊る。
はからずも幼き術師の占いの通り、ニッコニコでワッフルをあっという間に平らげ、ナイフとフォークを置いたところで、ユクは酒場の隅から漂う暗い空気に気付いた。
「…しょぼ~ん。ドルブレイブショー顔出し回のチケット、買えなかった…。やっぱり大っきいヴェリナードの券売所に行けばよかった…」
その日、意気揚々とアズランの券売所に出掛けたごましおは、今朝発売の目当ての品が手に入らず、テーブルに突っ伏して悲嘆に暮れていた。
「まあまあ元気出しなって。お、この林檎ジュース、めっちゃ美味しい!」
「ワッフルなんかもあるみたいだぞ。ごま、何食いたい?」
同じテーブルに腰掛けるルームメイト、自称いけてるウェディのミサークと、彼より歳下ながら姉御肌な気質からよっぽどしっかりしてみえるドワーフのウィンクルムの二人が気を紛らわせようとするが、なかなか上手く行かない。
ウィンクルムにならい、しぶしぶ林檎ジュースをすするズビーという異音がさらに鬱々とした空気を醸している。
見ず知らずの相手、まして、占いをお願いされたわけでもない。
よせばいいのに。
内心で自分に呆れつつ、しかしインパスを発動してしまう。
(あ~…うん…綺麗に赤いなぁ…)
インパスは当たる。
このままでは絶望的。
首を突っ込むなと諫める心と裏腹に、ユクの足はごましおのもとへと向かっていた。
続く