セ~クスィ~はすんでの所で首を捻り、ユートピアの拳を躱す。
ただの正拳突きが、まるで大地の箱舟とでもすれ違ったかのように、拳に遅れてよろけるほどの風が豪と吹き抜けた。
腕が伸び切った隙をみて、人の身ならば心臓のあるところをめがけ真っ直ぐに突進してくる真紅のフォトンサーベルをあらぬ方向に背を曲げ回避し、すれ違うココソーの腕を鷲掴み造作もなく放り投げる。
宙でくるりと反転しココソーは涼し気に降り立つが、ユートピアに握られた左手首は感覚を失い力がこもらない。
止むを得ずフォトンサーベルの一本は地に突き立て、一刀に切り替える。
ユートピアは2人のアカックブレイブに肉弾戦を仕掛ける傍ら、直接操ることは叶わずとも、残存するガチャコッコにはアカックブレイブへの突貫を、キラーマシンにはその弓でもって射掛けるように指令を飛ばす。
百戦錬磨の二人と言えど、限られた腕の本数でさばける攻撃には数の限りがある。
「避けきれない雑魚の攻撃は気合で受けろ!」
「分かっているっ!」
最も危険なのはやはりユートピア自身の攻撃だ。
一撃でも喰らい魔装を解除されては、再度の魔装展開はかなわない。
もっとも、ドルセリン管が無いという問題を差し置いても、ダメージがそれを許さないだろう。
ユートピアの攻撃を最優先、それ以外は受ける覚悟で武器を振るい続ける。
低い位置からココソーの体勢を崩そうと狙うガチャコッコを、ユートピアとの距離を詰める最中で足を大きく振り上げ踏み潰せば、セ~クスィ~はユートピアの拳を打ち払う為にハンマーを振る軌道にキラーマシンの矢を巻き込んで迎撃する。
そうまでしてもかすめる攻撃に生傷を増やしながら、からくもユートピアに迫り、遂にハンマーが身体を捉えたかに見えた。
『随分ト脆イ武器ダ』
「なっ…!」
正面から打ち合ったユートピアの拳により、ハンマーが粉砕される。
「まだまだだっ!」
一撃の破壊力よりも手数で攻めるべきと判断し、残る一本のハンマーも柄を引き抜き、2つの柄を連結すれば両端から刃が飛び出しランスとなる。
『動キガ鈍リ始メテイル。ヤハリソウダ。相応シクナイ』
わざわざ敵に言われるまでもない。
ココソーもセ~クスィ~も、得物が軽くなったというのにその動きはどんどんと精彩を欠いていっている。『肉身ヲ持ツモノハ皆、衰エ、ヤガテ朽チ果テル。ソモ滅ブ定メナノダ』
100年、200年、そして500年を経て不変の我が身こそ、アストルティアを統べるに相応しい。
そんな当たり前のことが、何故わからないのだろう。愚かな生き物には、早急に引導を渡さねばならない。
視界の隅で、スクラップの山の中から損壊しつつも再起動し浮き上がるキラーマシン2の姿をセ~クスィ~は確認するが、この距離ではどうしようもない。
打ち落とすにも射線が死角にあたり、ユートピアの攻撃を捌きながらでは不可能だ。
ココソーとキラーマシン2との間に自らを盾代わりとして身を置き、矢が放たれんとしたまさにその瞬間、キラーマシン2の身体が膨らんだ。
「一閃突き…!!」
勢いのあまり自らも握った槍、ケラウノスとともに、キラーマシン2の背後から大穴を穿ち抜いて現れる黒いスライダークヘルメット。
「…現在の出力限界は30%だ。くれぐれも無理をするな」
「無理くらいするさ!当たり前だろう!!」
ケラウノスの忠告も、フタバにはどこ吹く風である。普段なら造作ない駆動、しかし今やそれでも著しく熱を持つ機体をケラウノスのヒャド系呪文で無理矢理冷やし、残存するキラーマシン群を潰していく。
「ほいさ、ほいさっ!」
「やらせないわよぉ!」
これくらいの数であれば。
フタバと付かず離れずを保ちながら、フィズルとおきょうもまた、スパナを両手にタッグを組んで手近なガチャコッコを一羽ずつタコ殴る。
威力は勿論お察しであるが、構造を知る故の的確な攻撃はガチャコッコの飛行能力に深刻な影響を与え、倒せないまでも無力化を果たしている。
もはや遠くから見守っている場合ではない。
まさしく互いに総力戦であった。
続く