「ふんふんふ~ん」
ある昼下がり。
チームアジトの厨房に立つミサークは、傍らの葡萄を象った瓶を取り、細い口から大きく深めのフライパンにオリーブオイルを軽くタパっと流し込んだ。
フライパンを傾け油を引き寄せると、細かく刻んだニンニクを投げ入れ、油にニンニクの旨味を馴染ませる。
バサッと投入したタマネギのみじん切りが茶色く染まる頃には、強烈なニンニクの香りが厨房に充満した。
「おっと、いけね」
いつもの手順で赤唐辛子のスライスがミッチリ詰まった瓶を手に取り、ザクッと大さじを挿し込んだ所で、今日は親友のごましおの分も含むんだったと思い留まる。
ガッツリ辛くするのはまた今度だ。
香付けで収まる程度のごく少量だけにすくい直して、油へ投入する。
鼻をくすぐる豊かな薫りで油が仕上がったのを確認して、潰したトマトを僅かな塩だけで整えた赤いベースを薄くフライパンに投入した。
完成時の血のような赤さが、ミサークが調理にいそしむリゾッタータの一種、『暗殺者のパスタ』の語源になったとかどうとか言われているが、別の説によれば作り手の殺意を感じる程に辛いからとも言われ、正確なところは知らない。
まあ、美味しければよかろうもんである。
油とベースが馴染んだ所で、湿気予防の為の保存瓶からパスタを取り出すと、乾麺の状態のまま真っ二つに折ってはテキパキと人数分を投入していく。
少ししかない水分はすぐさまパスタに吸われ、しかし柔らかくなるには勿論不十分、僅かにしなる程度の硬いままのパスタに、そのままフライパンで焦げ目を付けていく。
その後は様子を見ながら、先と同じ潰したトマトを水で溶いたシンプルなスープを適宜追加し、パスタが存分にスープを吸ってしなやかになり、程よく汁気も無くなった所で火から降ろすと、菜箸で一人分ずつを巻き取っては皿に盛る。
アクセントに甘味噌で炒めた挽肉を少しと、胡椒を挽いてさっと振りかければ、ミサーク謹製『暗殺者のパスタ』の出来上がりである。
よだれを垂らさんばかりに待ち構えるチームメイト達に給すれば、たちまち賑やかな宴が始まる。
チームアジトのダイニングテーブルはやや狭いため、ミサークはキッチンカウンター横に背の高い丸椅子を引っ張り出して腰掛け、作りたてのパスタを頬張った。
「うん、旨い旨い。上出来だな」
皆の顔に浮かぶ笑顔を眺めつつ、ミサークはつい先日、ふらりと立ち寄った店の事を思い出していた。
続く