大地の箱舟の線路高架下という、かしましい立地にポツリと佇む、童話の中から飛び出したような外観のパスタのお店。
美味しそうな香りに誘われたミサークは、大きなメニュー帳を開き、定番のアーリォオーリォのラインナップにさっそく迷い込む。
(ああ、茄子ね。唐辛子の馴染んだオイルを吸うと堪らんのよな。めんたいこ、う~ん、オリーブオイルと海の地味のマリアージュ…悪くない。からあげ、わんぱくな組み合わせだなぁ。おお?てりやきベーコン!?斬新!…んんん、いかん、このままだとアーリォオーリォだけで日が暮れる…)
無理矢理に目線を引き離し、次のメニュー群へ歩みを進める。
「おっ、そう来ますか」
まだ2ページ目だというのにお次のメニューはグスターレ。
和風のスープと合わせたパスタだ。
トマト系やクリームの王道なパスタでなくこちらを持って来るあたりに拘りを感じる。
先程のアーリォオーリォと同様に、ラインナップも豊富。
「んっ、なるほど」
店の外の看板にも、『魔女』と銘打たれたこのページのベースのパスタの写真が貼られていたのを思い出す。
そういえばここ、チハヤの地域食はあんかけスパゲッティであったか。
スープパスタとあんかけスパゲッティ。
近からずも遠からず。
ならば納得の布陣ではある。
郷に入っては郷に従え。
地域名物という蠱惑な誘いに注文の品を決めてしまいそうになるが、いやまて落ち着け。
まだページは沢山ある。
引き続き新鮮なバジルたっぷりのペペロンチーノ、店の名を冠したブラウンソース、トマトソースやカルボナーラなどの蠱惑なダンジョンを潜り抜け、最終的にミサークが選んだのは、期間限定メニューの牛肉のラグーソース。
ミートソースの起源ともなったと言われる、ほろっほろになるまで時間をかけて赤ワインで煮込まれた牛肉のソースは、悩みぬいた後に選んだという心理的スパイスも相まって、ミサークの舌のみならず心まで存分に満たしていく。
パスタに絡め切れず皿に残ったソースを、付け合せのガーリックトーストですくい、お皿を真っ白にして…
「ごちそうさまでしたッ!!」
回想の完食と、親友ごましおの満足の声が被った。
「あ~あ~、ほっぺたついてるぞ」
頬に跳ねたソースを紙ナプキンで拭ってやる。
今度はごましお達も連れて行こう。
しかし、道を挟んで向かいにあったエスニック料理の店も捨てがたい。
頬杖をつきながら、自分の作ったパスタに満足の笑みを浮かべるチームメイト達の姿にニヤけるミサークであった。
~完~