友人が頭上に頂く被り物、プクリポの丸っこく安定感のある頭を足場に鎮座する、今にも声を挙げそうな精巧な鶏のつぶらな瞳とヒッサァはまんじりともせず見つめ合っていた。
賑わう店内、否が応でも友人の出で立ちは、すわ、お店の関係者ではないかと注目を集めている。
「折角のRFCなのに、ヒッサァ殿はフライドチキンを食べないんですかのー?」
門外不出の配合のオリジナルスパイス香る衣を嘴でつつく友に尋ねられた。
らぐっちょが両手に抱え持つフライドチキンの肉の部位はサイ。
鶏の腰にあたり、一番ジューシィで肉厚、サイズも大きく食べ応え抜群な人気の部位である。
共喰い…と溢れそうになった言葉を飲み込み、ヒッサァはフォークでマカロニとブロッコリーを拾う。
「RFCはエビグラタンも絶品なんですよ。私はこれが好物でして」
本当はトマトの酸味豊かなミートソースをたっぷり挟んだラザニアを狙っていたのだが、残念ながらラザニアはディナータイム限定メニューである。
それゆえ次点のエビグラタンに甘んじたわけであるが、そこに後悔は無い。
事実、友人の見た目に配慮したわけでもなく、ふんだんに使用されたエビの旨味が染み出したホワイトソース、そしてそれをまとったホクホクのブロッコリーと、まるでニョッキのような絶妙な弾力のマカロニが奏でる味のハーモニーは、ヒッサァのみならず多くの美食家を唸らせるRFCの名物の一つである。
「鳥の死霊系モンスター?はて…」
ヒッサァは先日相対した謎の相手について、知見の広い友人に尋ねる為にこの席を設けたのだ。
互いにメインディッシュを消化し、食後のコーヒーとレモンゼリーをつまみながら本題を切り出した。
「トラス構造で強度こそ保っているとは言え、鳥族の骨は軽い作りですし。格闘にはとても向かないと思いますのー」
他にも指の数など、サイレスに準ずる鳥と人が混ざったようなモンスターだとしても、辻褄の合わないポイントが多々存在するが、加えて触れる必要はあるまいと切り捨てた。
「なるほど、どうりでらぐっちょさんは軽いわけだ」「…ワタシはプクリポですぞーーーっ!?」
ヒッサァの口から無意識に飛び出した勘違いにツッコミを挟むが、既にヒッサァは思惑にふけっている。
あの時、魔物の一撃からは確かな重みを感じた。
とすれば怪人系か悪魔系、それが骨だけで動いている理由も含めて、想定の幅を広げる必要がありそうだ。
「そういえば骨で思い出しましたけれども。このあいだ、珍しい物をお祓いしましてのー」
らぐっちょの本職は、食欲増進、健康祈願に霊験あらたかな黄金鶏神社の御神体…もとい、神主である。
先日もカミハルムイの伝統行事にまつわり、公の神事としてあるお祓いを執り行った。
「…ほぅ?」
「透き通るような純白のオグリドホーン。あんなものは初めて見ましたぞーっ」
「…純白の…オグリドホーン…純白…白…白…」
「中々の憑き物で苦労しましたけれども、専門家のクマヤン氏と妖精族のマユミ氏の協力もありましてな。呪い…いや、あれは怨みですな…ともかく、禊が終わると水晶の如く輝きを増しましてのー。あれを用いた踊り子の装束は実に見事でしたなー。是非ともオガ娘さんに着てほしいのですぞ…」
らぐっちょが神社を離れ、たまたまヒッサァには都合良くジュレットに滞在していた理由も、お祓いを終えたオグリドホーンを裁縫ギルドに納品し、無事踊り子の装束に加工されたのを見守った後、そのまま息抜きにウェナ諸島の観光に興じていたからであった。
「その装束は今、何処に!?」
ヒッサァはガバッと身を乗り出し、らぐっちょに詰め寄った。
「はて…?恐らくカミハルムイかと思いますがの?」あの純白の装束は、今思い出しても感動に涙が溢れそうなほど美しかった。
ヒッサァが興味を持つのもさもありなんと、らぐっちょが深く頷いているうちに、当のヒッサァは店の出口へ駆け出している。
「らぐっちょさん!ありがとう!!支払いはそれで済ませておいて下さい!!ちょっと行ってきます、また何処かで!!!」
「はあーーー、相変わらず、行動力の権化でらっしゃいますなーっ。………て、ちょ、これぇ!ヒッサァ殿!?一桁多いのですぞーーーっ!!?」
火傷を拵えながらも残りのコーヒーを一気に飲み干して、会計を終えるとお釣りを渡す為ヒッサァの後を追うらぐっちょであった。
続く