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常闇のバシっ娘

レオナルド

[レオナルド]

キャラID
: QB020-044
種 族
: プクリポ
性 別
: 男
職 業
: 魔剣士
レベル
: 131

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レオナルドの冒険日誌

2023-06-30 12:41:07.0 テーマ:その他

蒼天のソウラ二次創作『白姫異譚』その10

微睡みの中で、声を聴く。
白く儚い初雪のような、か細い声だ。

(…あの人が来てる…)
あの人って誰?
(行かなくちゃ…)
行くって何処へ?
(謝らなければ…償わなければ…)
…貴女は何を後悔してるの?

声だけではない。
何処からともなく響く声の主、その胸に満ちる哀しみをも自らの胸の内に感じながら、ヤマの意識はより深く深く、眠りの闇の中へと沈んでいくのだった。

「…いかん!」
いなりの渾身の一撃は見事化物を両断するだろう。
誰よりもそれを確信し、その美しい一振りを目に焼き付けようとしていたかげろうだからこそ、予想だにしなかった事態に反応ができた。

「ぐっ…!」
かげろうはいなりを正面から抱き抱え、力の限りに地を蹴り距離を取ろうとしたが、猛虎の爪が如く薙ぎ払われた鉄扇から迸る冷気に背を焼かれ、呻きを漏らした。
「…どうして!?」
いなりにとって、あまりにも理解不能な状況は、立ち上がることや刀を拾うことはおろか、羽織も破れ剥き出しになったかげろうの背の傷を慮ることすら忘れさせる。

かげろうをして見事と感嘆させるほどの一撃は、鉄扇で事も無げに受け止められた。
そのまま返す手で放たれた冷気の嵐により景色は一変し、あたりは氷に包まれている。

姫というキーワードから十二単衣を意識、しかして舞の衣装であることから動き安さを最優先してデザインされた装束は、素材の一つとなった世にも珍しい純白のオグリドホーンと同じ、澄んだ白に染まっている。それを見事に着こなし、充分な距離をとってなお化物を庇うように間に立つは、奇異な4本角を頂く、他ならぬいなりの大切な家族であった。

「どうして!?…ヤマ!!」
かげろうの介入が無ければ、いなりは今頃氷漬けになっていた事だろう。
どうしてヤマがこんな事を?
武術はもちろん、こんな強力な 呪文の心得がヤマにあるはずがない。
そもそも、化物の目的は?
極限の集中から切断された緊張の糸を結び直すのは容易ではなく、いなりの心は千地に乱れる。

「…刀を握れ。もう一体…来る…ぞ」
「あ…」
かけられた声、そして眼前に晒された無惨なかげろうの背中が、わずかにいなりを混乱から引き戻す。
動かしづらいのに目を瞑れば傷口の血が凍ってくれているのは有り難いものの、もちろんそれで痛みの全てが帳消しになるわけでもない。
意識を手放してしまいたいのは山々だが、促しこそすれ、この状況でいなりはまともに刀を振るえまい。
おのが身だけでも護ってくれれば、それでいい。

「…邪な者では無いと、思ったんだがな」
ふうっと強く息を吐き、痛みに震える筋肉を黙らせ、かげろうは己の判断ミスを悔やんだ。
ジュレットから届けられた舞の装束。
そこに何かが憑いていることには気付いていたかげろうであったが、その由縁までは知る由もない。
許嫁のいなり、ひいてはその家族に対し、害を為すような気配は無かった故に捨て置き、しかし念のためと足繁く通ったのがせめても功を奏したが、ここまで状況が悪化するとは。

かげろうの忠告のとおり、凍りついた地を割いて浮かび上がった紫の魔法陣から、骨の塊が這いずり出る。まるでパズルのように骨は組み上がり、先より対峙する化物と等しく片翼の歪な人型をなした。
かたやゾンビ、かたや白骨、竜の頭と鳥類の頭、違いは多かれど、武をおさめる者であれば骨のつくりや在りし日の筋肉の形を見取り、それらが同種であることが察せられる。

(仲間を呼んだ…?いや…違う…)
空気がより一層凍てつくような感覚。
いなりとかげろうを相手取った際、ついぞ見せることの無かった殺気をゾンビが白骨に対して放っている。
その殺気に晒されて、かげろうはずっと脳裏にちらついていた化物に対する既視感の正体に気が付く。
「………たしか…天魔、だったか。なるほど…強いわけだ」
無論同一の個体ではあるまいが、かつてのカルサドラ火山で盟友ユルール、そしてソウラが率いるパーティとともにようやく討滅した強力な敵。
攻撃手段や風貌の違いから気付くのが遅れたが、この威圧感は間違いがない。

「さて…どうするか」
2撃か、3撃か。
この怪我の状態で振るえる刃は限りがある。
その中で2体の天魔を斬り伏せ、ヤマを正気に戻す。成し得るビジョンが見えなさすぎて逆に滾る心根を刃を握る手に込めて、凄惨な笑みを浮かべるかげろうであった。
                      続く
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