「なーーーっ!お待ちになってですぞーーーっ!!」お会計というロスタイムもさることながら、オーガとプクリポとの圧倒的な歩幅の差は如何ともし難い。
全力でヒッサァの後を追い、切符を買い求めた所で無慈悲にも大地の箱舟の扉が閉まった。
『駆け込み乗車は~危険ですのでお辞めください~』折りしも諫めるような構内アナウンスが鳴り響く。
「アッ、はい…スミマセン」
黄金鶏神社はドルボードの交通安全祈願も承っている。
そんな神社の御本尊自らが交通マナーを破る訳にはいかない。
もののついでに売店でとこなつココナッツを買い求め、潮風の抜けるホームのベンチへ腰掛けた。
カリウムを中心とした様々なミネラル、電解質を豊富に含む素朴な味わいは、海の香りと陽射しの風味によく似合う。
両手に抱えたココナッツの実の器からずび~~~っとストローで中身のココナッツジュースすすりながら、らぐっちょは先行きを考えた。
煮えたぎった油の如く懐を温める過剰なお釣りは次に会った時に返せば良いかもしれないが、神社に居を構える自分と違い、あの風来坊をこちらから捕まえるのは手羽先が折れる。
しかしながら現在のジュレットでのバカンスも、実は神社に連絡を入れていない。
そろそろ帰らねば色々とまずいのだ。
これ以上仕事をさぼるには、何かしらの大義名分が必要である。
「…やはり神主としては、ちゃんと踊り子の装束が舞手のオガ娘さんに渡るまで、見届けるべきでありますなーっ」
そもそも着る相手が誰かなど知りもしないが、寸法的に種族はオーガで間違いはないだろう。
そしてくれぐれも、中身のオーガの娘が目当てではないのだ。
神に誓って本当である…たぶん。
とこなつココナッツを飲み干し、飾りも兼ねたフルーツも食べきる頃には、当者調べで非の打ち所がない理由を携え、胸を張って後続の大地の箱舟に乗り込むらぐっちょであった。
「遅かったか…」
降り立ったカミハルムイは喧騒に包まれていた。
昼下りということもあるだろうが、この騒がしさはそれだけではない。
飛び交う噂話を拾うに、昨夜、ニコロイ王に仕える名家の一つが魔物の襲撃を受けたらしい。
兎にも角にも、その一件に先の白骨のモンスターが絡んでいるとの確信を胸にヒッサァは現場へ急ぐ。
「…いよぅ、苦労人。こんなとこまで、どうしたい?」
カミハルムイの気候、加えて今の季節としては信じられない事に一面の氷に覆われた屋敷前、門番として炉端の大きな岩に腰掛ける男はヒッサァの馴染みある男であった。
「これはこれは…」
こんなとこまで、それはこちらの台詞でもある。
「オグリドホーンの話、聞いてるぜェ。随分と面倒くせェこと押し付けられてンな。だからお前の爺さん見倣って、あんな連中とはとっとと縁切っちまえば良かったのサ」
それが出来ない性分だと知っていながらも、出逢う度毎度お馴染み、もはや何度目か分からないアドバイスを送ると、用心棒として雇われのかげろうと同じくJB一味の一人、ダンはかっかと牙のような歯を覗かせ大きく笑うのだった。
続く