「来たっ!!」
ヨナとユルールのコンビネーションが生み出した渦潮は海を割り砂浜まで続き、キュララナビーチへとデプスロガンを打ち上げた。
「た~すけてなのであ~~~~~~~~~………………………………」
海中でデプスロガンの右腕にずっと握られ囚われの身であったゾフィーヌは、拘束の緩んだ瞬間、ユルールの一撃の勢いをそのままにドップラー効果を引き連れて彼方に消えるのであった。
勿論、ここに至る経緯はアマセから説明済み、誰の目から見ても自業自得な相手の心配をする者はいない。砂浜に落着したデプスロガンを前に、総員、準備万端である。
「おいおい、何てバケモンだ。腕がなるぜ」
「こりゃあ食いでがありそうですなーーーっ!」
「まさか、日和ってる奴はいねぇよなァ!?」
「当たり前よ!海を開くためなら(水着のギャルを拝むためなら)、生命だって賭けてやるぜ!!行くぞ、野郎共!!」
アマセは叫ぶと魔術士でありながら先陣をきり突き進む。
そこまでの意気込みで、と感動するムーロンに対し、助平兵団の面々だけがその言葉に潜むアマセの真意を汲み取り、力強く頷く。
かつて海邪甲デプスロガンはサメハダ十二鱗と語り継がれる深海の勇者たちにより封印されたという。
なんの因果か、まっこと偶然ながら助平兵団もまた十二人である。
死屍累々、何ともぐだぐだな人海戦術の果て、何とか封邪の箱にデプスロガンをおさめることに成功した。「あとは封邪の鍵で封印を…まずいッ、抉じ開けられるぞ!?」
ガタガタと弾けんばかりに震える封邪の箱、慌てて身体をもって抑え込もうとするアマセだが、如何せん、相手は大質量の蟹の魔物である。
「大丈夫かアニキっ!俺も…」
封印を果たせば海開きも同然である。
すかさずマージンはフォローに入る。
「「「力なら任せろーっ!」」」
「えっ、ちょっ…」
「いやそんな、待っ…く、来るなっ、ノオォー!!?」
海の治安を守るべく馳せ参じておきながら、諸悪の根源との戦いを助平兵団に任せっきりにせざるを得ず悔しい思いにかられていた海の漢達が、ここぞとばかりにガッツリとスクラムを組んで伸し掛かる。
ひしめき合う筋肉にアマセとマージンが飲み込まれる中で、ようやく海邪甲の封印は再び成されたのであった。
◇◇◇
「ぷっはーーー!!暑い夏にはやっぱりキンキンに冷えたメルサンディの麦酒!!たまんないねぇーーー!!」
花火が打ち上がる夜空をバックに、歌姫テルルが結露も美しいキンキンに冷えたビールジョッキを空にする。
「イイ飲みっぷりね!…でも泡がついておヒゲみたいになってるわよ」
「えーーー!?」
今日ばかりは歌姫もお休み、親友にして戦友のマユラと夏を楽しむ。
「兄上!あっちに占い師さんが来てるらしいぞ!…ところで『占い』って何?」
浜辺に不釣り合いな槍を背負った少女が、兄の手を引く。
「あ~…未来を調べてくれる…みたいな…?」
「おお!凄い!!」
果たして、綺羅びやかな布の敷かれた簡易テーブルには『ただいまお食事中』の札が立てられていた。
「あ、今休憩中みたいだね。仕方ない、後でまた来よう」
「うん!あっちにあったカキ氷っての、気になる!!」
「たこ焼きたこ焼き~!う~ん、美味し!!」
とうの占い師といえば、喜びにポニーテールを揺らし、占いに使う水晶球ないしはビーチボールのように綺麗な真円に揚がったたこ焼きに舌鼓をうっていた。
「ふぅーーー蟹はもうコリゴリでありますなーっ」
占い師とすれ違ったらぐっちょがそう言いながら貪り食っているのは、焼いたタラバの脚である。
くちばし目一杯についばめば、焦げ目がつくほどに炙ったことで引き出された暴力的な甘みが、らぐっちょの口いっぱいに広がる。
「…たこ焼きソースとマヨネーズ…そして青海苔と鰹節…やはり混ぜ合わせることこそ至高…」
「先生、目がやばい、目が」
昼の激しい戦闘で魔力が枯渇し、軽い酩酊状態に陥ってビーチパラソルの下に腰掛けるピンク髪の麗人に寄り添い冷やしきゅうりを差し出すは、真夏でもトレードマークの黄色い鎧に身を包むハクト。
マージンの息子と偶然にも同じ名前の彼もまた、ブラオバウムと同じく助平兵団の一員であった。
「これ、ウマ~!!!」
「おう、ごま、食えるだけ食っとけ食っとけ!高級食材だぞ!!」
一方ではブロックアワビの踊焼きがふるまわれ、プクリポの少年ごましおは引率のミサークと共にパクリパクリと一口で平らげていく。
ようやくの海開き。
紆余曲折の果ての初日の夜を迎え、問題を解決した冒険者への御礼を込めて、大宴会が催されていた。
もちろん千客万来、海開きを待ち焦がれた人々でビーチはあふれかえり、夜とは思えぬ喧騒と熱気に包まれている。
しかし、その中に立役者たるアマセとマージンの姿は見つからないのであった。
続く