俵から取り出したばかりの米をざらりと小ぶりな鉄鍋にあけ、その5倍の分量の水を加えて囲炉裏で一煮炊き。
粒が確認できるか否かまでどろどろに煮立ったそこへ、滋養強壮効果のあると言わるニラを刻み入れ、こちらもまた丸めて干せば兵糧丸となるほど栄養価の優れたいなり家秘伝の味噌をさじでざっくりと掬い溶き入れれば、味噌がゆの出来上がりである。
「良い香りだな。でもそれ絶対熱々だろ?ちゃんとふ~ふ~して冷ましてくれ。…あ、口移しで食べさせてくれても良いんだぞ?」
いなりはかげろうの言葉にニッコリ微笑むと、布団に身体の半分を預け残りは猫のようにいなりにしなだれかかるかげろうの口に、陶器のさじをズボッと深く突っ込んだ。
「あっつ!?ああああああァ…!!?」
「あんまり派手に動くと傷が開きますよ~」
絶叫の中にも確かにジュッと肉の焼ける音が響く。
「まったくもう………大丈夫。私なら、大丈夫ですから」
いなりは呟くように返し、そっと空になったさじを器に戻す。
確かに、ヤマを助けられなかったことに気落ちはしているが、かげろうを助ける選択をしたことに、悔いはない。
「あ~………うむ」
ペロッと舌を空気に晒し冷やしながら、かげろうは無礼を戒めるように自らの頬をペしりと叩いた。
やはり怪我で思考力が鈍っている。
本音半分、気遣い半分でおちゃらけてみた訳だが、そも我が許嫁殿はそんなに弱くはないのだ。
厚みある漆塗りの器をいなりから受け取り、今度は慎重に冷ましてから二口目を運ぶ。
先程はあまりの熱さに味わう余裕も無かったが、適温のそれを口の中でゆっくり転がしてみれば、味噌に含まれる様々な薬草の滋味が弱った脳に活を入れてくれるようだ。
「…あの転移の術式。これまで見たことがないが、カミハルムイであのような魔物の出現情報もとんと聞かない。移動範囲はかなり広いと見るべきだろう」
行き先も分からず闇雲に飛び出しては、救えるものも救えない。
「2体目の魔物まで現れたことを考えれば、狙った場所に転移のできる術式なのでしょうね」
「ううむ…何か手がかりになるものがなくては…」
考えを巡らせど、あっさり停滞に陥る。
「邪魔するぜェ」
ふと、いなりとかげろうの沈黙を破り静かにふすまを開けたダンは、二人の客人を連れていた。
「お二人さんよ。鴨が葱を背負って来たってな、こういう状況を言うんだろうなァ」
「鴨?鶏でなくて?」
玄関先で積もる話を消化しているうちに追い付いてヒッサァと合流した鳥類、もとい、らぐっちょの姿をかげろうはまじまじと見つめる。
ちょうどタンパク質が足りていないところだ。
「そんでヒッサァの旦那の槍が葱ってか?見たまんまの意味じゃねェよ」
「ワタシ、鶏じゃなくてプクリポですぞーっ!?」
ねぎま、鶏皮ポン酢、水晶鶏、からあげ、鶏大根、鶏南蛮、麦酒缶チキン、軍鶏鍋………養分を求めてうわ言のように調理先を羅列しながら、まだ立ち上がれない為、腕の力だけで這いずり近づくかげろうに恐怖するらぐっちょであった。
続く