その頃、既に2度、3度に渡る兵団の面々との接敵の果て、マージンは這う這うのていでようやくアズランに辿り着いていた。
兵団の為、透明化のからくりを明らかにすることの意義は理解できるが、いつ果てるともしれない効果時間、まずは一人でも夢を叶える事を優先した。
まことにくだらないがマージンとしても断腸の思いなのである。
姿は透明なれど警戒は怠らず、そっと木陰から浴場の入り口を窺う。
懐から取り出したフツキの姿に似せたついてくんを歩ませれば、予想通り、トラップが発動し、ついてくんは哀れ、囚われの身となる。
「…クモノのトラップ。バウム先生の仕業だな。だが、詰めが甘い」
縛られたついてくんを横目にのり越え、建物へ侵入しようとした所で、足下にさらなる魔法陣が光り輝いた。
クモノは二重、三重に仕掛けられていたのだ。
「今です!マージンさんを取り抑えて下さい!!」
「「「おおっ!」」」
ブラオバウムがレムオルの復活を成せれば、助平兵団の悲願が成就する。
「…想定済みよ!」
クモノの呪力の糸に雁字搦めにされる直前、僅かな指先の挙動で背後に迫る兵団に向けてマージンが転がしたネバネバ爆弾もまた、マージンと同じく透明化しており、何かが転がる音にブラオバウムやらぐっちょらが気付いた時には既に手遅れだった。
撒き散らされる粘着物質が兵団の面々を絡め取り、逆に爆風しか届かない位置のマージンはそれにより自由を取り戻し、浴室へ繋がる階段を転がり落ちる。
これ程までに器用に爆弾を使いこなすが故の爆弾工作員(ボムスペシャリスト)の二つ名である。
障害は全て捻じ伏せた。
姿は見えないとはいえ、エチケットとしてカウンターへ入湯料のゴールドコインを親指でトスして、いざ楽園へ…と揚々と突撃するマージンの首根っこが、むんずと鷲掴まれた。
「お客さん、男湯はあっちだよ。間違えてもらっちゃ、困るねぇ」
「………!?なん…は…ええぇ!?」
「…これはレムオルでは、無い?」
ネバネバ爆弾に絡め取られ阻害された視界の中でも、確かに起爆の瞬間、その爆風により姿が顕わになるマージンの姿をブラオバウムは捉えていた。
ほぼ同時に駆け付け、ネバネバ爆弾に巻き込まれたフツキもまた、爆風によりその姿を取り戻している。
誰一人として知る由もないが、2人が透明になったのは、古のあやしいかげがその体内に含んでいたレムオルの粉の影響だったのだ。
爆風により粉は散り、助平兵団の夢もまた、諸行無常に消え果てた。
しかし、遺跡に開いた大穴の奥からは、未だ得体の知れない空気が滲み出している事を、誰一人として知る者はいないのであった。
~完~