日付が変わろうか否かという時間。
昼中であれば優しく日を遮ってくれるガゼポの内部には花を象った燭台の優しい光が満ち、月のみが頼りの夜の闇の中であってもくつろぐには充分な明るさを演出している。
ヴェリナード調の小テーブルを挟み穏やかな時間を過ごす二人のもとへ、彼方からポンポンと断続的に微かな花火の音が届いていた。
「…あら?何かお祝い事かしら?」
マユラが音のする方角、彼方のレンダーシアに位置するグランゼドーラの空の方を見やれば、僅かながら夜空に次々と咲いては散る火の花が見受けられた。
「ん~?あ~、えっと確か今日って、アストルティアの何十万だか何千万だかと加えて11年目の周年記念日?」
マユラに答えながら、テルルは三段のアフタヌーンティースタンドにスコーンを並べていく。
一段目にはプレーンとチョコチップ、二段目には生地にもチョコを練り込んだダブルチョコと、ドライフルーツの桃と烏龍茶葉を練り込んだ逸品を、そして最上段にはダージリン茶葉をこれでもかと含んだ上にレモンカードをベースにした酸味爽やかなアイシングをかけ、さらに輪切りのレモンを載せたとびきりの品を。
「なるほど。どうりでメギスも賑わっていたのね」
テルルが華やかなスコーンのタワーを組み立てる傍ら、マユラはテルルと連れ立ってスコーンとともにメギストリスで買い求めた紅茶の準備を進める。
茶葉はアッサム。
しっかりとしたコクがありながらも渋みが少なく、ミルクを混ぜれば強い発酵の風味を宥めすかし、スコーンと合わせるに程良いバランスに仕上がる。
グランゼドーラに触発されたようにジュレットやグレン、メギストリスの方角からも鳴り響き始めた祝いの音を楽しみながら、テルルとマユラは粛々と時間外れのアフタヌーンティーの準備を終えた。
「…ついつい買いすぎた感は否めないわ」
「うっ…確かに…」
こういうものは見栄えも大事と理解はしつつも、一個一個がプクリポの握り拳ほどのスコーンの山を前に、小麦粉を摂取するにはいささか背徳の時間帯であることも相まって、マユラもテルルもほんの僅かな後悔にかられる。
しかし仕方がないのだ。
お互い2個ずつと決めていざ店の扉を潜ってみればそこは花畑のように一面色とりどりの御茶請けが並んでおり、あれよあれよという間にカゴはいっぱいになっていた。
その甲斐あって、アフタヌーンティースタンドは晴天の日のキラキラ大風車塔もかくやという美しさと、それ相応のボリュームを誇っている。
「あらやだこれ、ホントに美味し」
「どれどれ…わぁ!ホント!!」
準備が整った以上は、紅茶をまたせるのも失礼である。
流石メルサンディにて開かれたコンテストで金賞を獲ったというスコーンの美味しさは伊達ではなく、思い出話やクエストの愚痴、互いの意見や考え方の相違すらも楽しんでいるうちにいつしか大きな紅茶のポットも空になる。
「周年を大勢で祝うのも良いけれど。今日のこれはこれで、とても素敵ね」
「そそ!おしゃべりも大切なクエストの一つよね!!」
「ふふ。よい記念になりました。これまでの周年で一番よかったわ」
「ほんとーーー?今度勇者の橋で花火も打ち上げよう!」
「今度って周年記念日は今日なのよ?………でもそうね、何でもない日を祝うのも…いえ、何でもない日なんて、無いのかもしれないわね」
友と過ごす。
それだけでいつだって、その日は特別になるのだ。
~完~