ヒッサァを圧倒したジバルンバサンバが打ち砕かれようという様を、しかしグランザは微笑ましくすら思いながら見つめていた。
それでこそ、だ。
「ジバ、アムド!」
グランザの呪文に地が応え、隆起した土がその身を覆い尽くしていく。
叶うならばこの身を打ち倒すのはヒッサァが望ましかったが、贅沢は言うまい。
詰まるところ、一人で出来ることはたかが知れている。
この先、頼れる仲間が居るかどうかも、どのみち確認せねばならないことだった。
託すに足るか、全身全霊でその力を試させてもらう。
土の鎧をまとい、自らが繰り出した土の巨腕を根本からタワーランスで割り砕きながらグランザはマユラに迫る。
詠唱から発動までにラグのある設置型呪文の最大のメリットは、発動時に術師本人が動けることにある。
もちろん、マユラとてグランザ本人の動きを警戒していなかったわけではない。
しかし、ジバルンバサンバの極大の拳を隠れ蓑にしようとは、流石に想定外であった。
「なっ…!?」
「その姿は!」
マユラとテルルに対し真っ向から、間に挟まる巨岩の拳を術師自らタワーランスで割り開き現れたその異形に、反応が遅れる。
もとより伸び切った拳で迎撃は不可能、せめて受け身と背後のテルルを庇いながらも、タワーランスの横薙ぎの一閃に二人まとめて弾き飛ばされ、木にぶつかって地に伏せた。
グランザのその身を鎧の如く覆う岩くれは、マユラとテルルにもよくよく見覚えのある姿を象っていた。
「「まさか…鬼岩城…!?」」
それはこのアストルティアに知らぬものなどいない古の冒険譚、その挿絵で垣間見た、大魔王の拠点にして、その真なる姿を模したとされる強大な移動要塞。
もちろん、スケールは比べるべくもないが、それは物語にふれた誰しもの胸に刻まれた異形の姿そのものであった。
「歳の割に幼稚と言ってくれるなよ。幾つになろうと男は冒険譚に憧れるものだ。さぁ、真実を求めるならば………見事魔王を打ち倒してみせよ」
タワーランスを突き立て、未だ地をなめるマユラとテルルが立ち上がるのを天地のかまえで悠然と待ち構えるグランザであった。
続く