海を割り、ウェナ諸島へ迫る鈍色の巨神、ダイダルモス。
かつて世界が侵略者に襲われた時、敵の超兵器に対抗すべく作りだされたのがこの機械仕掛けの神だという。
しかし遥かな大海原の底に眠ること幾星霜、神話にも等しい時を経て、フジツボと海藻に覆われた守護神の目に映るは、見慣れぬ種族の栄える都市だった。
主を見失った守護神は、メモリーの光景からあまりにも変わり果てたアストルティアの姿を前に、それが侵略の果てに蹂躙された結果と思い込み、皮肉にも侵攻を開始したのだ。
ウェナ諸島の危機に立ち向かえるのはウェナブルーしかいない!
今だ!王子合体!!プリンス・ウェナリオン!!!
「…すっかり夢中になってしまったわ」
プリンス・ウェナリオンをバックにアクションポーズをばしっと決めたウェナブルーの特大ポスターに見送られ劇場を出たマユラ達の手には、まだ中身の8割ほどが詰まったプリンス・ウェナリオンの上半身をかたどったポップコーンバスケットが握られている。
流石は魔法建築工房『OZ』の監修、大量生産品でありながらも、デフェル荒野のピラミッドの遺産を参考にデザインされたという神々しいフェイス、ダイダルモスと真っ向から殴り合った太ましい右腕、ウェナブルーのパーソナルカラーである蒼に染まる巨大ロボットの意匠が劇中さながら、実に見事に再現されている。
販促グッズもさることながら、肝心の『劇場版ウェナブルー 蒼海の巨神』の映像作品としての出来もあまりにもよく、あっという間に2時間の上映時間は過ぎ去って、ごくじょうソルト味と天上のはちみつ味のハーフ&ハーフのポップコーンを口に運ぶ間がほとんどなかったのだ。
「ホントホント、最高だったね~!」
「「「ね~!カッコよかた!」」」
「「「うん!大人になったらウェナブルーになる!!」」」
テルルが共に観劇したマユラの娘たちに声をかければ、微笑ましい感想の花が咲く。
最後、本来の使命を全うするべく、暴走した自身の動力炉の爆発からヴェリナードの民を守るため、ダイダルモスが自ら海溝に沈んでいくシーンでは娘たちの前でありながらマユラもテルルも涙を禁じ得なかった。
「さ、帰ってお茶しましょう!」
既に夏の思い出の1ページとしては充分すぎる時間を過ごしたが、今日の本題は他にある。
「テルルちゃんの歳の数だけホールケーキが用意してあるのよ!」
マユラの愛しいプクリポの娘たちの一人、ぷっくりした鼻もとが可愛らしいるーみーがぴょんとジャンプしてキノコの帽子を揺らす。
「わぁっ!楽しみ~!!12個かな?」
さりげなくちょっぴりサバを読むが、幸か不幸かツッコミは不在である。
「はっ!?しまった~!それはサプライズだったの!!今のナシ、ナシ~!」
ついうっかり秘密をこぼしてしまうのも、実に愛らしい。
がちょ~んと目と口を見開き、プクリポの娘たちは慌てて取り繕う。
「うん、綺麗さっぱり忘れた。な~んにも知らないよ~。うふふ」
色とりどりの紙のリボンに、テーブルを埋め尽くす大中小とサイズも種類も様々なお祝いのケーキを皆で囲んで、今年も特別な宴が幕を開ける。
~Happy Birthday~