遥かな古にも催された知の祝祭。
望まざる参戦を余儀なくされ、何のことはなく自信満々に解答を間違えた二人の姿がそこにあった。
「…行ったぞ!レオナルド!!」
アラハギーロ調を思わせる、黒や紫で穏やかな色合いながら所々金細工を施された動きやすくも華美な服装に身を包んだオーガが合図を飛ばす。
鋼のような鱗と剣が擦れ合い、激しい火花が散る。
斯様な大質量、剣で受けるも限界があった。
しかしそこは本職の本命躍如、先日仕入れたばかりの斬れ味が落ちる代わりに折れにくくなる呪いのかけられたカトラスでもって、巨大な魔物の突進を凌ぎ切る。
両足を肩幅より少し広くピンと地に張り、弓を引き絞るは新緑のショートマントを翻す銀髪の弓使い。
クマヤンは魔物を受け流し、軌道をそらすが精一杯。だがしかし、それでいい。
大蛇のあぎとの如く開かれた3本の指。
そのど真ん中、相手は腕故に存在しないが、蛇であったならば喉にあたる位置を起点に真っ直ぐ、背骨をなぞるように放たれた矢が貫通する。
かつて同じく元戦士団の踊り子ワッサンボン、四術師の一人であるフォステイルと共に封印したシドーアームによく似ていたが、あれは斯様に黒く染まってはいなかったし、その動きには手首や肘など、まさしく腕として制約ある動きをしていた。
それに対して先の魔物は鞭、いや、まさしく大蛇のように自在にその身をくねらせていて、狙いを定めるに難儀した。
頼れる前衛がいなければ、討伐は難しかっただろう。
「どう?繋がったかい?クマヤン」
脅威は去った。
弓を背負うと、逞しい背中に声をかける。
『…こ…………マ……………………』
「…むぅ。駄目だな。ノイズしか聴こえん」
はぐれてしまった相棒、マユミとコンタクトを取るべく、ピアスに結ばれた鏡片を摘み、こすってみたり揺さぶってみたり試行錯誤ののち、クマヤンは深くため息をついた。
「だからメイジダスターで磨いておけとあれほど…」「マジックアイテムの扱いは難しいから仕方ないね。それにしても、マユミと姐さんの二人の姿がここに無いってことはまあ、二人は正解したんじゃないかな?」
ぐるりと見渡す室内には、クマヤンと自分の姿の他はない。
魔物の死体もいつしか、霧のようにほぐれて消えていた。
「………」
沈黙ののち、レオナルドと同じようにぐるりと辺りを見回してから、クマヤンは向き直る。
「………嘘だろ。間違えた、だと!?」
ようやく状況を飲み込んだクマヤンの絶叫とともに、正解したマユミらの待つ部屋へと続く扉が音もなく現れるのであった。
続く