「………あ~。完璧に思い出したわ。これ『知の祝祭』ね…。なんか嫌な感じすると思ったら、あなた招待状送りつけられていたのね。厄介なのに巻き込まれたなぁ…」
頭を抱えつつも、ただでは起きないのがマユミである。
およそ500年ぶりの知の城塞、他人宛の招待状の転送効果に巻き込まれた形とはいえ、やってきてしまった以上は何かしらの実りを獲て帰らねば。
直接の面識はなくとも、この場に集うが要人ばかりであるということは会話や立ち振舞いから汲み取った。
…ということは、このクマヤンのパフェにご執心な女史もあるいは?
まあそれは、おいおいで良かろう。
マユミ自身が招待状を受け取った訳では無い以上、前回の記憶に倣えば、どのみちこの先の問題を彼女と共に挑むことになるのだ。
「この空間をご存知なのですか?あ、申し遅れました、私は…」
「勇者姫、アンルシアさんでしょ?こう見えても冒険者ですから、お噂はかねがね。私はマユミ。次期妖精女王の、マユミよ」
さんざん伝え聞いた出で立ちに、先程の剣捌きを見れば、間違えようはない。
「まあ、貴女が!ユルールから海底離宮でのご活躍は聞いています」
「ふっふ~ん、そうでしょうそうでしょう!」
活躍したのは主に連れ立った女冒険者のかいりであるが、そこは気にすまい。
既に名高い勇者姫にこの名を覚えてもらっているとは、洋洋な前途は約束されたようなものである。
彼女はグランゼドーラ王国の王女でもある。
ゆくゆくはアンルシアを通して妖精の国と国交を結ぶのも悪くないと、早速捕らぬポンポコだぬきの皮算用を始めるマユミであった。
「私はエステラと申します。よしなに」
実は可愛いものに目がないエステラ。
早速マユミをモデルにしたぬいぐるみがあったらそれはそれは素敵であろうと妄想を膨らませながらも、それをおくびにも出さずさらりと会釈する。
「私はメレアーデ。私も妖精さんのお話はユルールから聞いているわ。色んなところを旅したけれど、妖精さんの国はまだなのよね。ここを出たら、是非詳しくお話を伺いたいわ。よろしくね」
挨拶に交えてさり気なく先を促す語りは、流石は永き時を渡り、エテーネの民を代表する彼女の経験と貫禄の為せる技である。
「うんうん、苦しゅうないわよ~。んでそうね、何とかしなくちゃ。こういうこともあろうかと、相棒のクマヤンと緊急時に連絡が取れるように準備はしているわけよ!」
「おお~~~!」
準備が何かは分からないうえ、クマヤンなる人物を知るのもユクだけではあるが、自信満々な様子のマユミに一同から感嘆と称賛の歓声と拍手が巻き起こる。
それに気分を良くしつつ、マユミは懐からキラリと光を反射する何かを取り出し、ピアスに加工されているそれを耳につけた。
「あれで頼りになるんだから、私の相棒。…こほん、それでは、あ~、あ~、もしも~し!聞こえる?クマヤン!!クマヤ~ン!?」
ややあって、ピアスが震え音を奏でるが、それは酷くノイズにまみれ、辛うじて懐かしい誰かの声と分かるが、とても聞きとれたものではなかった。
『…行………!…………ド!!』
「…なんて?お~い!………あ」
僅か数秒で、ブツッとピアスからの音は途絶える。
「も~っ!だからまめにメイジダスターで磨いとけって言ったのに!!」
「………ダメみたいですね」
一同ががっくりと肩を落とす中、次の設問へ誘う不気味な鐘の音が鳴り響くのであった。
続く