「…次の問題が始まるみたい。いい?無茶を言うけど、絶対に間違えないで。皆揃って、アストルティアに戻りましょう」
一問目を終えて、間違えればモンスターと鉢合わせということがわかっている。
しかし皆かつてユルールと共に死線をくぐり抜けてきた者ばかり、見渡す限り緊張はすれど、無用に萎縮した様子はない。
ただ一人、ユクを除いて。
「えっ!?何、何なの?」
イルーシャとついつい話がはずみ、共同解答者たるマユミはマユミで顔を売り込むのに夢中になってしまいユクへの説明を欠いて、途中参加で理由も分からぬまま、繰り返される鐘の音につれて身体がうっすら透明になっていけば慌てようものである。
「落ち着いて落ち着いて。向こうで説明するから」
幼い子を宥めるようにぽんぽんとユクの頭を撫でるマユミであったが、目まぐるしいかな、既にユクの意識は我が身を襲う異変よりも、マユミの奥に立つ二人に向いていた。
「…いけないッ!」
意図せず起こったインパスの発露。
イルーシャとメレアーデを染めあげる血のような赤に、ユクは咄嗟に声を上げる。
しかしパフェと生き別れた時と同様、有無を言わさず視界は閉ざされ、然る後に、マユミとユクはロウソクの立ち並ぶ墓石の如き石板の前へ飛ばされていた。
「そうだ…その目には、『視えた』はずだ」
知の城塞の天守閣、暗闇に浮かぶ無数の鏡面に、参加者たちの送られた各部屋の様子が映し出されている。各々が石板に刻まれた問いに頭を悩ませるなか、唯一、元の部屋へ戻れないかと慌てて振り向き壁を叩くユクの姿があった。
無論、招待した誰しもに資質と可能性はあれど、中でもユクこそが盟主の本命であった。
此度の祝祭は、ユクのために設けたと言っても過言ではない。
ユクと縁あるいばらの巫女を客人の一人として選び、彼女には答えられぬであろう問いを用意したのも、全てはユクの力と心を見定める為である。
キルルの暴走は想定外とはいえ、そも、間違えればモンスターと遭遇する、というルールをユクに示すには、かえって好都合ではあったのだ。
ここ数年多発している強力なモンスターの出現。
世界のバランスを崩しかねない彼らの存在は、倒されてなお、アストルティアの民に消えぬ恐怖の記憶として留まり、ともすれば再び現出する可能性をはらんでいる。
その前に仮初の身体を与え、不正解者と戦わせ弱らせるのは対処療法でしか無い。
500年前に施した封印が緩みかけている今、新たな封印の礎が必要なのだ。
「さぁ…何とする。定めを乱す占い師よ」
盟主は心なしか輝きを増した胡乱な瞳でユクの選択を見守るのであった。
続く