今機械兵が手にしている大剣は、もともと手にしていた武器をかなぐり捨て、拾った借り物だ。
ユクが刀以上の重さの剣をうまく扱えないように、機械兵にとってそれは扱えなくはないが自身の仕様に適していなかったのだろう。
弱体化で剛体性を損なった状態からの最初の一振りで肩、肘、手首と機械兵の関節は軋み、微かな火花を散らした。
造られた身体、その性能と耐久性のギリギリのラインを、ユクの愚者のタロットが踏み外させたのだ。
その後、愚者のタロットの効果が消えたとはいえ、僅かながらでも損傷した関節で加えて鈍重な武器を振るえばどうなるか。
アストロンで好都合にも瞬きすら止められたその瞳で、ユクは機械兵の動き、とりわけ精細を欠いていく右腕の様子を漏らさず見ていた。
「皆、備えて。ユクが隙を作るから!」
イルーシャを除けば、マユミともメレアーデとも、ユクが過ごしたのはごく僅かな時間だ。
それでも、共に死地をゆけば、自ずと信頼が生まれる。
急造とはいえ、ユクの言葉を疑うものは、パーティの中に一人もいない。
機械仕掛け故に先程の背部からのジェット噴射など多少出鱈目があるとはいえ、人型は人型である。
冷静に動きの起こりを見極めて、追いつけない分は先読みして間に合わせる。
「…やっぱりさ!いなり先生に比べたら、全然!!」いなりの剣には、速度に加えてしっかり腕と目の動きを見ているというのにそれでも何処を狙ってくるかが分からない嫌らしさがあり、たった1日のうちに何度と無く床を舐めさせられた。
しかしこの敵は違う。
あらためて迫りくる機械兵、馬鹿みたいに正確に首を狙うその一振を、ユクはかろうじてではあるが確かに受け止めた。
「そぅれっ!!」
そして後の先である。
刀を機械兵の大剣に絡みつかせるようにひねりまとめ、その切っ先の側から地面に叩き付けた。
「………!!?」
超重量物に悲鳴をあげていた機械兵の右腕、その関節という関節が先端の地に埋まった大剣に引きずられてあらぬ方向に捻れ、手首から肘、肩と、連鎖して爆ぜていく。
「…今っ!」
すかさずメレアーデが天に向けブーメランを投げ放てば、無数の聖なる光の矢となって雨の如く機械兵に降り注ぐ。
右腕の爆発により反応の遅れた機械兵は、性能の限りに後ろへ飛んだが、追いすがるような光の矢の雨にまず爪先がつかまり、そのまま次々と全身を打ちすえられた。
「…とどめです!」
蔦が転じた弓を構えたイルーシャが、ドルマの力を込め、限界まで引き絞った一射を解き放つ。
黒き流星は見事、機械兵の頭を貫き、そのまま背後のマッドファクトリーの残骸にまで大穴を穿った。
「やった!やったよぉ…あぁ、腰が抜けたぁ…」
喜びの歓声とともにへたり込んだユクを囲む一同の向こう、マッドファクトリーと機械兵が消え去ると、もはや見慣れた次の部屋への扉が静かに姿を見せるのであった。
続く