同様の光景を、500年前にもルシナ村付近の丘の上で4人の参加者達が見上げていた。
「…あれは…最初にルール説明に現れた知の盟主とやらの背にあった鉄柵か?」
球体をなした鉄柵は、なるほどクマヤンに言われてみればその通りである。
「やみを…しばる…か。なるほどねぇ」
最後の質問に辿り着いたことで、眼前の光景が意味する知の盟主と知の祝祭の真意を知る姐さんこと戦士団の肝っ玉母さん、セレンは感慨深く城塞の消えた空を見つめた。
アストルティアの民の負の記憶を、自ら檻と化して閉じ込める。
転生体モンスターは、どれしもオリジナルにない特異な力を持つが、これはまた随分と途方も無い。
そしてその原動力が同じくアストルティアの民の想いだというのはまた、何とも夢のある話ではないか。
「ところで姐さん、最後の問題って、どんなだったんだい?」
2問連続で間違えたレオナルドとクマヤンはあえなく敗退となり、あらためて知の盟主に謁見することはかなわなかった。
「それはねえ…ふふ。秘密、かな」
顎に人差し指をあて、セレンはいたずらに微笑んだ。あの問いの答えは、皆に明かすにはちょっぴり気恥ずかしい。
そしてそもそもどんな問いであったのかを知る特権は、辿り着いた者だけにある。
人生は冒険の連続だ。
いつだって明日には、輝かしい奇跡のような瞬間が、私を待っている。
しかしいつかは必ず、私の冒険の日々に終わりは訪れる。
だとしても。
セレンはゼタとの間に産まれた、何よりも愛しい我が子を思い浮かべる。
紡ぎ、紡がれ、受け継ぎ、また託して。
そうして私の冒険は、私が居なくなっても、ずっと、ずっと先の世まで続いていくのだ。
「さ、私のお腹の時計によれば、そろそろお昼ごはんの時間ね。レオナルド、クマヤン、マユミさんも。食べてくでしょ?」
「もちろん」
「ご相伴に預からせてもらうわ」
「………それ、モンスター食材は使われてないよな?」
「そうと決まれば、急がなくちゃね~!皆お腹すかせてるだろうから!!」
セレンはクマヤンの問いに答えず歩き出す。
致し方ないと覚悟を決めてクマヤンも後に続いた。
「そうだ、レオナルド」
「ん?」
上手くやるだろう、との言葉の通り、相棒の帰還を嗅ぎつけ駆け寄ったガルムの首筋を撫でてやりながらレオナルドは首をかしげる。
「何処かで、手帳を買いたいんだが、その方面は疎くてな。良い所をしらないか?」
「ふむ。どんなのが良いんだい?」
「そうだな…とにかく頑丈で、出来る限り頁数の多いものが良い」
「むむ…それだと………」
レオナルドの答えを待ちつつ、あれやこれやとセレンに料理の注目をつける相棒を見やる。
手帳は、生涯を通しても書ききれないくらいに、分厚いものが良い。
マユミと『クマヤン』の冒険は、ずっとずっと先の世も、続いていくのだから。
続く