「…プレゼント?ああ、そんな時期か~」
チームアジトの裏手で農具の手入れをしていたオーガのノードゥスは、くいくいと袖口を引いたごましおの質問に相槌をうった。
「ふむ…確かにね。あいつはパスタやピザをよく作るから。ボクもそう思って、去年、ナイフとフォークのセットを贈ったんだけど…」
陽気なチームのムードメーカーであるミサークは、外観からは少々意外ながら、古くからの言い伝えや迷信を大切に思う一面がある。
「刃物はボクと縁が切れるといけないからって、代わりにこれを貰っちゃってねえ」
そういってノードゥスが取り出したのは、馬の顔が大きく刻まれた、傍目にも歴史を感じる1枚の金貨だった。
「何か大昔のレースの記念硬貨らしくて。これでナイフとフォークを買ったことにして、縁が切れないようにってね。それ以来、大切に使ってくれてるから喜んではくれたんだろうけど、贈り物としては失敗しちゃったかなぁ」
確かに、理由にもミサークの想いにも納得はいくが、代価を受け取ってしまってはプレゼントとは言えない。
プレゼント選びは振り出しに戻ってしまったが、しかしながら、去年とはいえ中身被りという悪手は免れた。
確かな成果を手に、ごましおは次に頼れる姐御のもとを訪れる。
「…プレゼント?あ~…あいつは難しいよぉ?」
仲間モンスターのゴレムスとともに薪の整理をしていたドワーフのウィンクルムは、作業の手を止めて首にかけたタオルを持ち上げ額の汗を拭う。
一昨年、ハンカチを贈った時には、ミサークはウィンクルムの前ではおくびにも出さなかったが、涙を拭う必要のある悲劇に見舞われるのではと不安になり、こっそり黄金の鶏が神主をつとめるという神社に足繁く通い始めた。
結果、割の良いクエストが舞い込んだり、憧れの人とお近付きになるなどの御利益を如何なく享受したらしく、その報酬でチームアジトの設備もグレードアップして、ウィンクルムの仕事も随分楽になったが、贈り物として成功かどうかは微妙なラインである。
リベンジの去年は、ウェナ諸島を撫でる清々しい海風をイメージした香水を贈ったのだが、これを機に身だしなみをあらためようと変なスイッチが入ってしまったミサークは2ヶ月ほどプリンススタイルでチームの面々を困惑させる事になった。
「まぁでも何だかんださ、ミサークって…あれ?」
肝心の部分を話そうとしたところで、ごましおは参考にならなさそうだと既に歩み去ってしまったことをゴレムスからハンドサインで示されるウィンクルムであった。
「うわぁ、もうこんな時間か」
やがて訪れるミサークの誕生日。
しかし今日も今日とて、ヘトヘトのクタクタになるまで、街の皆のお手伝いクエストを山とこなして帰路につく。
そんなミサークを、チームアジトの門扉でごましおが待ち構えていた。
「…ごめんね。結局、何も思い浮かばなかった。だから、コレ」
何の話…と言いかけて、ミサークはようやく今日が自分の誕生日だったと思い出す。
チームの面々のそれはけして忘れないというのに、うっかりしたものである。
どれだけの間、ごましおはこうしてミサークを待っていたのだろう。
差し出された2つに分けられるタイプのチューブに詰まったアイスの片割れはすっかり柔らかくなっていて、その温かさに比例して、ごましおも何処かしょんぼり気味だ。
「ありがとな!ごま!!」
ミサークはごましおの曇りを吹き飛ばす満面の笑みを浮かべてアイスをすすった。
程よい冷たさのコーヒーの味が疲れた身体に染み渡る。
ウィンクルムがごましおに伝えようとした言葉。
気持ちがあれば、中身など気にすることはない。
贈る側の張り合いはないかもしれないが、自分を想ってプレゼントを用意してくれた、ただその気持ちが、ミサークにとって何よりも嬉しい贈り物なのだから。
ごましおと仲良くアイスを吸いながら、庭を抜けてアジトの扉をくぐる。
鳴り響くクラッカーに、湯気立つ料理の数々。
最高の仲間たちが、ミサークを嫌というほど祝いつくしてくれようと、手ぐすね引いて待っている。
~Happy Birthday~