長めの斜め切りで並ぶアグラニネギの白と、カミハルムイで採れた春菊の緑、ツスクル産の芋から作られた糸コンニャクに、ポポリアきのこ山のしめじと十字に切り込みを入れた三度笠のように立派な椎茸、さらには、しっかり焼き目がつき角のたった硬めの豆腐に、割り下を吸い琥珀に染まる短冊状の角麩。
そしてそれらを鍋半分に押しやり贅沢に鎮座するサシも鮮やかなたっぷりのガートラントビーフの薄切り肉。
すべての具材が我こそこの鍋の主役と主張し鍋の中でふつふつと踊る。
「そうそうこれこれ、こんな感じ」
仕上がり間近の鍋の様子を見定め、じにーはコクコクと首を弾ませる。
「そうね、バッチリなのだわ」
じにーと同じくその完成図を知るマユラもまた、鍋の姿を記憶と照らし合わせ太鼓判を押した。
「へぇ~、なんだか不思議な感じ」
カミハルムイのいなり邸にて、立派な一枚板のコタツ机の上、よく知るはずの相手の見慣れぬ姿にユクはワクワクを隠せない。
「Exteの皆も呼べれば良かったなぁ。残念…」
マユラとともに白姫にまつわる縁と、ユクのデザインする服飾ブランド、オガデスのモデル兼出資者であることでこの忘年会への招待を受けたテルル。
いなりの方からは人数の制限は特になく、友人や仕事仲間など自由に誘ってくれてよいと打診は受けていたが、アイドルにとって年末はかきいれ時である。
残念ながらそれぞれのソロないしはユニット活動等々で、予定が合わなかった。
同じく白姫の縁でらぐっちょもまた誘いを受け、こっそり参加しようと目論んだのだが、大晦日に御神体、もとい神主不在は許されじと、年末年始の黄金鶏神社の警備を引き受けたヒッサァ並びに関係者各位に鳥居をくぐったところで捕縛された。
『けしてとりすきにされることを懸念したわけではないですぞーーー』
と涙ながらの訴えの文言が不参加の申し入れに添えられていたのは鳥足ならぬ蛇足である。
「でもこれはこれで。あ~…この湯気だけで白米が進みそ~」
言うも早いがヤマは甘辛い香りにうっとりしながら、こんもりと盛られた丼を片手に箸を握っている。
「「ヤマ。よだれが出てる」」
「うわっとぉ…」
姉2人の息の合ったツッコミに慌ててヤマは口をすぼめた。
すき焼き。
その語源は農具の鋤からきているとも、肉を薄く切るすき身からきているとも言われる。
兎にも角にも、めでたい場の料理の1つとして定番中の定番である。
醤油、みりん、米の酒、砂糖にだしで作る割り下を鍋に入れ、ひと煮立ちしたところで肉と野菜を投入するアズラン方式。
それに対して先に鉄鍋で肉を焼き、醤油と砂糖で直に味付けを行ったのちに野菜を入れ、煮詰まったところで酒や水を投入し薄めて調整していくのがカミハルムイ方式。
ひとえにすき焼きと言えど、地方によりその姿はがらりと様を変える。
カミハルムイに居を構えるいなりの家では類に漏れず、ながらくカミハルムイ方式であったが、かつてじにーがリリィアンヌの専属となる前、ドルワームでのファッションショーの折に打ち上げで食したというアズラン方式のすき焼きを所望したため、再現してみようという話になったのだ。
「そろそろかな。卵、足りなくなったら言ってね」
いなりはテキパキと人数分の広く浅めの汁椀に卵を割り入れ、オスシとヤマが配膳していく。
「それでは…」
「「「「「「「いただきま~す!!!」」」」」」」息の合った礼が響き、宴が幕を開けるのであった。
続く