「ちょっとヤマ、肉ばっかり食べてないで春菊も食べなさい」
「だって青臭いんだもの………今度天ぷらなら食べるから」
オスシに嗜められるも、そう言ってまたひょいと取れども尽きぬ肉を取る。
「美味しいのに。仕方ないなぁ」
偏食は良くないが、まあ年に一度の機会である。
長姉の縛りもいくらか緩い。
「熱っあ!?ふ~、ふ~………そういえばかげろうさんは?来てないん?」
豆腐で火傷をこさえつつ、ふと気付いてじにーは尋ねた。
「まあ、あちらはあちらでね、集いがあるから」
いなり家よりもかげろうの生家のほうが大きい。
だというのに昨年はJBたちと魔法建築工房『OZ』の忘年会へ無許可でくりだし、それはもう大層な問題となったらしく、今年は御庭番衆の厳格な監視のもと、大人しくしている。
「このあと年越しの時間には、蕎麦を食べにいらっしゃいますよ」
「そっかぁ。それは楽しみだ~」
じにーも忘年会に親友のリーネを誘ったのだが、初売りの準備やら何やらで残念ながらふられてしまった。夜行石の一件以来、密かに飲み友達となっていたかげろうの合流はとても喜ばしい。
「今年はなんだかキノコと縁の深い年だった…」
テルルは鍋の中の椎茸を見つめ、しみじみと呟く。
「………まだキノコ引き摺ってるの?」
Exteメンバーに却下された新曲、『キノコ生やしてる場合じゃない』をあやうくデュエット曲として巻き込まれそうになった秋口の珍騒動はまだマユラの記憶にも新しい悪夢である。
いなり家には当然、マユラの子供たちも招待されており、幼くなおかつプクリポの背丈でも問題がないよう低めのテーブルに同じ鍋が用意されている。
子供たちに合わせて、こちらの席のドリンクはキンキンに冷やしたお茶かジュースである。
「皆、好き嫌いなく食べなさいね~」
「「「「「「はぁい!」」」」」」
「ほら言われてるわよヤマ」
「聞こえない聞こえない、な~んにも聞こえない!ね、ユクさん!!」
とはいえせめてもの帳尻に、ネギにがぶりとかぶりつく。
中心がトロッとするまで煮込まれ割り下をたっぷり吸ったネギは果物のように甘かった。
「ブモ…ッ!?」
ぱっつんぱっつんに肉を頬張ったところで不意打ちをくらい、ユクは喉を詰まらせかける。
「…そういえばユクさんも椎茸を召し上がってらっしゃらないご様子」
完全な巻き込まれ事故である。
「好き嫌いはめっ、だよ?」
「「新年の抱負にします…」」
早速大人たちと打ち解けた子どもたちから純粋な眼差しを向けられ、心に傷を負う二人であった。
やがて〆に2口ぶん程度の炊き立てご飯をそれぞれ器に残った卵液に放り込み、すき焼きの旨味を存分にまとったTKGを皆ぺろりと平らげ、宴会は幕を下ろす。
「除夜の鐘まで何時間?」
「あと3時間、ちょい、かな」
「それまでにお腹すくかしら………」
どちらのテーブルも鍋は綺麗にさらわれて、子どもたちも含め一様にぽっこりしたお腹を抱えている。
待ち受ける年越し蕎麦のため、かるたや双六、悪い大人たちはふくびき券を賭けた花札など、思い思いに胃袋のスペースを空けるべく、賑わいは続く。
今年も残り僅か。
来年は、どんな冒険の日々が待ち受けているのだろうか。
しかし今ひとときはそれすら忘れ、この1年に残された僅かな時間を皆で楽しむ一同であった。
~今年もお世話になりました~