「ああっ、くすぐったいでありますぞりゅーへー!」「ええっと…あれは…」
「………食べられてる?」
ヒッサァに案内された先では、謎の純白の生物に絡みつかれたらぐっちょの姿があった。
かろうじて、牙でなく赤く長い舌が時折覗く様子から、餌と見做されているわけではないのだろうが、餌を前にした舌舐めずりである可能性も否定はできない。
「りゅーへーって…ネーミングセンス…てか…竜じゃん!何でこんなとこにいんの!?」
じにーの驚きはもっともで、らぐっちょに目一杯の愛情を表現しているそれは、まさしく竜であった。
数多数えるモンスターの中でもドラゴンに分類される魔物、とりわけ、エルトナの巻物に記されるような、蛇のような長い胴をもつものは非常に珍しい。
「昨日の朝、鳥居のところで保護しまして。以来ずっと、何故だか、らぐっちょさんにべったりで…」
竜の子ども、らぐっちょ名付けるところのりゅーへーはヒッサァの言葉の通りらぐっちょにぴったりくっついて、らぐっちょもまたくちばしの上をだらしなく伸ばしてデレッデレである。
「通常、モンスターはこういう寺社仏閣には立ち寄り難いものを感じ近寄らないと聞くが、逆に竜だからこそ迷い込んでしまったのだろうか」
かげろうの考察は的を得たものであるのだろうが、今問題はそこではない。
「りゅーへーはうちの子であります!立派な竜に育てるのですぞ!!」
「…いやそうは言っても神主さま…」
神職の者たちに遠巻きに取り囲まれ、その中心で駄々を捏ねに捏ねるらぐっちょの姿は5歳児くらいに若返って見えた。
「………無理に引き剥がして、暴れられてもあれですし…どうしたものでしょうか?」
「まだ赤ん坊なのかな?…わかんないけど…」
「だとしたら、きっと向こうは探していますよ、親のところへ返せないものでしょうか?」
「ツスクルに残る500年前の文献で、当時魔物の赤子を群れに返すために各地を旅した冒険者の記述があったが…それは狼型だったというからまだ姿がな。竜となると人目につきすぎる」
船頭多くして船ランドン山脈に登る。
なまじ頭数を増やしただけで、解決の糸口は見えず、そうした所へ慌てた様子で宮司が飛び込んできた。
「ヒッサァさん!大変、大変です!!!外に、外に…」
よほど泡をくったのか、言葉も途切れに気絶した宮司を巫女たちに任せ、飛び出したヒッサァの目に入ったのは、まさに驚くべき光景であった。
続く