散発的に火の玉が起こり、その度一瞬夜闇を血の色に照らす。
空に浮かぶ無数のからくり仕掛けの怪鳥から放たれ迫りくるミサイル、その全てを、鋼鉄の巨人は仁王立ちで受け止め続けていた。
直上で起こる爆発の熱風に晒され、真紅の特殊強化スーツ、魔装をまとった超駆動戦隊ドルブレイブのリーダー、アカックブレイブことセ~クスィ~は蹌踉めき膝をつく。
主人に倣うように、ドルブレイブのほこる鋼鉄の巨人、ドルセリオンもまた、サイドカードルボが転じたシールドは既になく、そこかしこの装甲を砕かれ、火花を散らして蹌踉めいた。
ドルセリオンの性能を持ってすれば、回避は容易いはずである。
しかしながら今、ドルセリオンの、ひいてはアカックブレイブの背後には、賊の襲撃が真夜中であったが故にまだ避難の出来ていない人々がいた。
街のあちこちの様子が巨大なモニターに適宜ズームされ、頭脳担当のおきょうすら含めたアカックブレイブ以外のドルブレイブの面々が、人々の救助にあたる様が垣間見える。
「あいも変わらず、不器用なことだ」
遠く離れた大陸の、そのまた地の奥底。
超駆動戦隊ドルブレイブの仇敵の1人、ケルビンはそのプクリポの小さな身体に見合わぬ長大な背もたれに身を委ね、モニターに映る戦場の様子を眺めていた。「マスターの宿敵、さしものアカックブレイブも、いよいよこれまでのようですね」
ケルビンの背後に佇むてっこうまじん、その手に握られた剣から、甲高い合成音声が鳴る。
自らの手による発明の1つ、意志持つ剣ケラウノスマークⅡの言葉は届いているはずだが、ケルビンは返す言葉はおろか視線の1つも向けず、モニターをじっと眺める。
ケラウノスマークⅡの言う通りである。
現状のドルセリオンには空戦装備がなく、一方的な攻撃にさらされてスクラップ寸前。
どう見ても、勝ち目はない。
しかし、しかしである。
あれは、アカックブレイブなのだ。
そして彼女が駆る、ドルセリオンなのだ。
依然として続く爆撃の中、待ちに待ったダイダイックブレイブからの知らせが、アカックブレイブの耳をうつ。
『…すまん待たせた!住民の避難、完了だ!!』
通信を聞き届け、アカックブレイブに漲る闘志に応えるように、ドルセリオンが咆哮をあげる。
未だ抗戦の意志を示すアカックブレイブとドルセリオンを哀れと思ってか、火線がやみ、内蔵された拡声機から敵パイロットの声が響いた。
『もはやお前たちに勝ち目はない!尻尾をまいて逃げ出すことだな!!』
なんともステレオタイプな負け台詞がモニター越しに飛び込んできて、ケルビンは思わず失笑する。
『………知らんのか?どんなに夜が暗く冷たかろうとも』
当然、ドルセリオンと同じく、アカックブレイブもまた、満身創痍。
しかしその瞳は、夜明けを告げる明けの明星の如く、燃えたぎっている。
『陽は必ず昇るのだ』
びしりとまっすぐ天を指す指先。
それをなぞるように、地平線から太陽が顔を出す。
「…ほれ見たことか。まったく、忌々しい」
反撃に打って出たドルセリオンは、半壊した脚部、千切られ垂れ下がったチェーンを引きずり出して鞭のように振り、敵の一機を絡め取る。
「マスター…嬉しそうですね」
「屑鉄にされたいか?」
「何でもありません」
そうでなくては。
あの赤ゴリラは、そして、我を差し置き天才の名をほしいままにするおきょうの発明は、何処ぞの馬の骨にやられるようなチンケなものではないのだ。
苦難も逆境も瓦礫の山も乗り越えて。
奴らは必ずまた我の前に立ち塞がる。
「…また直接相まみえる日を楽しみにしているぞ、アカックブレイブ、そして、超駆動戦隊ドルブレイブ」戦いの結末を見届ける必要などない。
ケルビンはモニターを切り、舞踏会へ着ていくドレスを選ぶが如く、迷惑な発明に勤しむのであった。
~完~