「ちょ…おま…それ………もしかして…」
「あ、やっぱりわかっちゃう感じ?いや~、大変だったのよ。結構年数経っちゃってたから、廃車になってるのは覚悟してたけどさ、まさか水没してると思わないじゃん?」
やはり、耳に狂いは無かったらしい。
リーネの苦労話も愛車が変貌を遂げた経緯も勿論気にはなる、というより是が非でも問い詰めねばならないが、今はそんな悠長な時間はなく、リーネのゴールドシャワーによりあたりが開け、絶好の好機でもある。
「まぁいいからとにかく出して出して出して!」
流石は大型車、じにーはリーネが座ってなお余裕あるシートの隙間に滑り込み、ギュッとお腹に手を回ししがみつく。
「そっちの狸さんは?」
「構うな。こちらは自前の脚がある」
「あいあい、山頂目指せば良いのかな?じゃ、いっくよーーー!!」
不健康極まるエンジン音に反し、二人を乗せたドルバイクは一息でトップスピードに達し、ウイリー気味に突き進む。
大地の箱舟を模した巨大なフロントカウルは敵の波を掻き分けるに最適だった。
走りが安定した所を見計らい、じにーはようよう疑問を口にする。
「ねぇ…それにしても…どうして…」
じにーの言葉は勿論、ドルボードのことではなく、リーネがここに居る理由を問うていた。
「ん~………なんとなく?」
こういうことを虫が知らせたとでも言うのだろう。
電話の通り、手持ちのピンクパールは全て郵送した。だが、果たしてそれで足りるだろうか?
カーメロに時間外労働を強い、掻き集めた追加のピンクパール。
速達で送ればまだ間に合うタイミングであったが、追加分のピンクパールは単に送るでなく、直接渡しに行くべきだと直感が働いた。
そして運良くその日ヴェリナードには、エスコーダ商会の交易船、ミーティア号が停泊していたのである。半舷休息中のところ、商会の跡取り娘のマルチナに半ば無理矢理話をつけてエルトナ大陸への片道乗船に漕ぎつけ、そのままドルバイクを駆り、オスシにじにーの居所を聞いて今に至る。
じにーにドルバイクを返却するのは、あくまでそのついでである。
「行かなくちゃ、後悔すると思ったんだよね」
「リーネ…」
思わずじーんと胸が熱くなるじにー。
鼻がむずむずするような、蒼き日の残り香はしかし、長くは漂わなかった。
「大事な金ヅ…友達を失うわけにはいかないからね」「気の緩みが原因か!?何気ない瞬間にうっかり本音って出るよな!?」
バッチリこの耳に入ってしまったが、リーネが照れ隠しに何と言いかけたかは忘れるが吉だろう。
百歩譲って、いずれにせよ助けてくれたことには違いはないのだ。
「…!前方上空、敵多数!頼める?じにー」
地上の群れは役に立たないと判断してか、ガーゴイルと死のカラステングの混成部隊が迫っていた。
「って言われてもピンクパールはもう…」
おにこんぼうから続く連戦で、サコッシュの中はとうに空っぽである。
「シート後方、バッグの中!」
シートから繋がる後方のカウルに引っ掛けられたバッグを開き中を覗けば、当初宿屋に送られた分よりも遥かに大量のピンクパールがひしめき合っていた。
「…!!オッケーサンキューっ!」
乱暴に掴み取り魔力を込めればたちまち、ピンクパールはじにーの掌から矢の如く迸る。
「おお、さっすが。でもちょいと敵の数が多過ぎ~」じにーに負けじと、一時ハンドルを固定した隙にリーネは金貨を投げ放つ。
正面から打ち据えるピンクパールの弾と、空から射貫く金貨の矢。
死角なき暴力に転じた高額所得が戦場に吹き荒れる。
「あ、ゴールドシャワーは1発2500Gになります」
「おい原価知ってんぞ!さらっと値増ししてんじゃねぇ!」
ぼったくりには苦情を入れつつも、これ以上ゴールドシャワーは撃たせまいとじにーは手数を増やす。
実際、並走する狸の為にも、リーネの面でなくじにーの線の攻撃のほうが望ましくもあることを、二人はよく理解している。
雑魚はじにーとリーネに任せ、たぬきは時折現れるおにこんぼうに集中、さすればもはや遅れを取ることなく、遥か自身を上回る巨体を鮮やかに唐竹に割っていく。
中腹での苦戦が嘘のように、息を合わせた三者は瞬く間に道なき道を駆け抜けていくのであった。
続く