「…意外と、やる」
アカツキは遠くガーゴイルの一体の瞳を借り、こちらに近付く3者の姿を確認した。
かつての師と、トドメを指しそこねたウェディの女。もう一人は見覚えがないが、ギガボンバーを絨毯代わりに敷き詰めるような異常な突破力に舌をうつ。
「ここまで辿り着くか…」
何よりもこの3人は、このモンスターの群れのからくりに気付いている。
この山一帯に解き放った循環する魔力により、モンスターは討たれようと再生できる。
しかし、おにこんぼうなどの強力なモンスターを生み出すには、おにこぞうであれば5体は作り出せる分の魔力を要する。
強い個体を生み出せばその分、手数が減るのだ。
さらには、一度生み出したモンスターは、倒されねば消えない。
アカツキが察した通り、じにーはこの無尽蔵にも見える魔物の群れの欠点を、道中で偶然にも見出していた。
追走を恐れ背後に目を向けた時、そこには仲間であるはずのおにこんぼうを襲撃するガーゴイルたちの姿があり、やがておにこんぼうが倒れると同時に、前方にヘルバトラーが3体出現したのだ。
再生は無限であれど、その数は無尽蔵ではない。
それに気付き、大型のモンスターを極力放置、進行を阻害する敵だけを狙い撃つ形にシフトした。
3人の侵攻は更に勢いを増していく。
一方で、かげろうの心を折る策もまた、失敗に終わった。
かげろうは自分を取り戻し、もはや二度とまやかしにはかからないだろう。
現に、再度の催眠は尽くはじかれた。
妖樹の檻の中で縦横無尽に暴れまわるかげろうといなりの姿は、かつての自分とかげろうの様に似て、しかしもうあの頃には戻れないのだと突き付けられているようで、食いしばった力でビキリと奥歯にヒビが入る。
「…もういい…疲れた…全て、ご破算じゃあ…ないか…」
出来ればかげろう様の身体を、生きたままで手に入れたかった。
殺してしまい死体となれば、また10年の壁が待っている。
「最初から、こうすれば良かったのか…」
しかしだ、全てを解決したていで、かげろう様の身体でカミハルムイに凱旋すれば、きっとさらなる強者にまみえる機会もあるだろう。
いなりとかげろうが見せつけた光景は、とうに蝕まれ限界を超えているアカツキの自我にさらなるダメージを与え、もはやその思考の大半が夜行石のそれに置き換わっていることに、当のアカツキですら気付かない。
「ふはははははははははッ!鏖殺だ!!」
アカツキが赤黒い胡乱な瞳を見開き、地を踏みしめ月を見上げて叫ぶ。
その咆哮がたなびくなか、たぬきちとリーネ操るじにーを乗せたドルバイクがいよいよ山肌を駆け抜け山頂に躍り出て、更には、一瞬にして燃え尽きるように灰と化していく妖樹、まとわりつく幹を引き千切るように覚醒したかげろうといなりが刀を抜いた。
今宵の百鬼夜行、最後の宴が、幕を開ける。
続く