妖樹から抜け出した2人、そして山頂に辿り着いた2人と一匹を視認する前から、アカツキは割砕くほどに地を大股で踏みしめる。
腰元に手繰り寄せた鬼火から飛び出すは、腕ほどの太さのある、樹の幹と身間違えんばかりの巨大な柄。
「ぬっ…うああああああッ…!!」
怒気をはらむ雄叫びを上げながら、その柄に相応しい長大な刃がずるりと姿を現していく。
「「絶対に受けるな!!!」」
アカツキの持つ三刀のうち、未だ秘されていた最後の一本。
身の丈の倍に等しい重厚な野太刀から繰り出される一閃は、受けの太刀など容易く両断する。
かげろうと狸の一喝を耳にして、いなりは両者に倣い這いつくばるほどに地に伏せる。
(なんて一撃…!)
間に合わなかった後ろ髪が僅かに刈られるとともに、押し潰されそうな風圧がいなりに圧しかかる。
「あっぶねぇなコンニャロっ!!」
吹き戻す風に委ねるまま身体を起こすいなりの耳に、懐かしい声が響く。
「じにー…!良かった、無事で!!」
親友の姿にほっと胸を撫で下ろす。
かげろうと死合ったのはせいぜいが小一時間くらいに思うが、催眠の中のこと、友の姿を懐かしく思う程には時間は経っているのだと推し量る。
となれば、その間飲まず食わず、精神世界ならいざ知らず、現実に帰還した今、この身体に残された体力を冷静に鑑みて、短期で決めると柄に手を添えた。
「いなり!それこっちの台詞だっつうの!!」
じにーもまた喜びを言葉にあらわしつつ、ピンクパールへ手を伸ばす。
たぬきちの声を聞き、咄嗟にリーネは身体を低くしサスペンションに荷重をかけ、その反動を用いて、もはや登り坂とは呼べぬ緩やかな勾配ながらも見事にドルバイクを大きく飛翔させ、じにー共々アカツキの斬撃を回避していた。
「くらえっ!このっ!!」
ドルバイクが上昇から落下に転ずる突入角に合わせ、じにーは握り締めた3つのピンクパールを解き放つ。
狙うは心臓、そこに潜む夜行石。
アカツキとは縁のないじにーなれど、たぬきちの事を慮れば、無駄な傷をつけたくはない。
あまりの速度に宙へ軌跡を引きながら、ピンクパールが突進する。
しかしながら、アカツキの能力において最も厄介なのは、自在な位置から繰り出される神速の居合でも、三本の異なる刀による変調子でもなく、抜き放った刀を鞘に納める必要が無いという隙の無さにある。
あたりをぐるりと薙ぎ払った長大な野太刀は既にアカツキの手から姿を消し、代わりに抜かれた小太刀が2つを弾き、残る1つは鬼火が吸い込み、じにーの攻撃は通らない。
そこへいなり、かげろう、たぬきちの三者が各々、刀を抜きざまに斬りかかる
「…剣鬼再臨」
アカツキは、ピンクパールを弾き、返した小太刀で先行するかげろうの刀を受け止め、空いている左手で印を結んで低く呟いた。
避けられると分かって野太刀を振るった理由。
もうこれ以上は、雑魚をいくら用意しようと詮が無い。
野太刀の一撃は出現させていた鬼たち全てを切り裂いて、そうして浮いた魔力を全て掻き集め、とびきりの災厄を練り上げる。
「誰………!?」
「ぬう!?小賢しい、面妖な手を使いおる…」
後続のいなりとたぬきちは、かげろうとの間を分断するように突如として現れたウェディの剣客、その手に握る鉈を大きくしたような粗忽な刃に止められる。
「…!?気をつけろ!そいつは強いぞ!」
どういう手品か、鍔迫り合いの最中にちらり見定めた増援の姿は、かげろうがかつて調べた歴代の夜行石保有者の中でも最悪の1人であった。
続く