「やっべっ!!アカックブレイブだ!…ジーク!2階からずらかるぞっ!!」
「えっ…?団長?一体何で…あっ!!」
まだ今日はドルブレイブのお縄になるような事はしていないはずと考えて、ようやくジークは行きがけに目にしたジェットバードに刻まれたエンブレムの正体に思い至る。
燃え盛るドルセリン(勇気)の証、あれは、超駆動戦隊ドルブレイブのものに相違無い。
「…何てことしてんだ、団長!」
とんでもないところから無断借用したものである。
そうこうしているうち、店主ミアキスにお釣りは要らぬと財布を放り投げ、皿の上の寿桃の残りを腕に抱えてマージンは脱兎の如く走り出していた。
しかし、虎酒家の二階へ連なる階段、その中腹へ差し掛かった所で、何故だか頭上から耳をつんざく勢いでマージンにアカックブレイブの罵声が降り注ぐ。
『お見通しだ馬鹿モン!!』
「ふおおっ…!?」
先の発声はマージンが強奪し虎酒家に乗りつけたジェットバードから遠隔で再生し、アカックブレイブ本人は先を見越して最初から2階に待機していたのだ。
アカックブレイブは慣れた手管でマフラーを引っ掴み一瞬の内にマージンを締め落とすと、獲物の鮭を担ぐごうけつぐまよろしく肩にぶら下げ、階下へと姿をあらわす。
「共犯者が居たはずだが…」
もう片手にはコクピット内を写した写真を握り、アカックブレイブは店内を睨め付ける。
「…うわぁ…おっかないったら…」
一連の鮮やか過ぎる検挙に逃げ出すどころか席すら立てず、下を向いてダラダラと汗を流すジーク。
「…むぅ?」
白髪に紫の服。
実に特徴的だがしかし、店内にマージンの連れとおぼしき相手を、アカックブレイブはついぞ見つけ出せない。
「…皆様、お騒がせしました。どうぞ、引き続きお食事をお楽しみ下さい」
首を傾げながらも、マージンから押収した寿桃を迷惑料代わりに齧りつつ、虎酒家を後にするアカックブレイブ。
「………助かったぁ」
扉が閉まってようやく、ジークは長い息を吐き虎酒家の円卓に突っ伏した。
その肌は、純白から深みある緑に転じ、身長までも半分近くに縮んでいる。
咄嗟にモシャスを唱えドワーフに変化したのだ。
「アンタ、面白い特技だね。しょっぴかれた馬鹿は兎も角、今日のところは黙っておいてやるよ」
「ありがとうございます~、女将さぁん」
ともあれ、お代はマージンが余剰なほどに支払っている。
最後の〆は、『紅蛋』。
本来は食紅で染めただけの何の変哲もない茹で卵だが、ここ虎酒家では一味違う。
浸透圧で海鮮スープの味の染みた茹で卵は、これまた前の2品同様、大変に美味で、マージンの分もぺろりと平らげると、ジークは1人、帰路につくのであった。
「赤い物で〆ねぇ…まあ、団長は、アカックブレイブと一緒だから、ちょうど良いんじゃないかな~。あ、お~い、乗せてもらえませんか~っ!」
お土産に買った花巻を1つ齧りつつ、通りがかった行商人の馬車に手を振るジークであった。
~HappyBirthday~