「…占いお待ちのお客様、最後尾はこちらになりま~す!」
間が、悪い。
どうにかする占い師、ユクは、どうにもならない現実を前に一つ小さなため息をつくと、金の刺繍の施された如何にもそれっぽい深紫のクロスが敷かれたテーブルに、ゆっくりとシャッフルしたタロットの山札を置く。
21の大アルカナから1枚を引くワンオラクル、引き当てたのは、『星』の逆位置。
その示すところといえば…
「突き付けられる、厳しい現実………」
ついたてで左右が仕切られただけの、相談相手が空っぽの簡易ブースに、ユクがテーブルにおでこを打ち付ける鈍い音が響いた。
「ミネアさんの占いは今からですと、えっと、3時間は待ちになります~!たぶん!…となりのユキさんのタロット占いなら、待ち無しですよ~!と~っても良く当たりますよ~!!」
………名前、間違ってますよ。
突っ込もうにも、急遽列誘導に駆り出されたウェイターさんはミネアの占い待ちの最後尾、つまりは遥か彼方である。
かれこれ一週間、ユクのブースにはグラスの水しか来客はないが、まあ、致し方あるまい。
ミネアといえば、占いに興味の有る無し問わずアストルティアの人々に広く知られた神出鬼没の高名な占い師だ。
むしろ、たまたま居合わせてしまった自分に非があるとすら言える。
しかしながら、一組二組くらいはおこぼれがあっても悪くはないんじゃないか。
「おね~さん、占って頂戴な!」
「来たっ………!!って、あれ、あなたは…」
ミネアと同じ褐色の肌に、紫の長髪、しかし神秘的なポーカーフェイスとは正反対に、誘うような妖艶な笑みを浮かべるその口もとと蠱惑的な瞳。
「あ~大丈夫大丈夫、あたしにしては珍しくちゃんとゴールドならあるわよ?」
ミネアの姉、マーニャはユクに微笑みかけると、今しがたステージでチップとしてもらったばかりなのであろう、豪奢な彫刻の施された銀の胸当ての肩紐に挟まる紙幣を抜き取り、ひらひらと泳がせるのであった。
(…ふぅん)
マーニャは促されるままに腰掛けると、ユクがタロットカードをシャッフルする音に耳を傾ける。
踊りのさなか、ステージから時折見かけるこの占い師の顔は、閑古鳥を肩に宿していつも青褪めていたが、腕は確かであるようだ。
なにせ、『妹さんに占ってもらった方が』、と告げてこない。
占いで何よりも肝要なのが、客の第三者となることだ。
水晶であれタロットであれ鶏であれ、そこに示された抽象的な解を形にする際、情は邪魔なもの、占いを妨げる不純物でしかない。
だから、妹では駄目なのだ。
ま、それもこれもミネアの受け売りである。
もっとも、このユクという占い師を頼ったのは、それとは別の理由であるが。
ユクが今回の手法に選んだのは、ファイブカード。
時間軸に沿って相手を占う事ができるスプレッドである。
マーニャ本人にも手渡し、双方の手で充分にシャッフルされた山札から5枚を並べると、まず現在を示す中央のタロットをめくるべく、手を伸ばすユクであった。
続く