『リャナ灯台下暗し』とは言えど、アラモンド鉱山のすぐ近くの地下深くに、マッドサイエンティスト、ケルビンの大規模地下工房があるとは、さしものドルブレイブも思うまい。
アラモンド鉱山内には、現在は凍結状態とはいえ、ドルブレイブの秘密基地がある。
むしろそんな場所にあえて造ることで、後々にドルブレイブの司令塔にして永遠のライバルであるおきょうを嘲笑う事がケルビンの目的であったのだから、そんな非合理極まる動機を想定できよう筈もない。
そして、常人にはけして理解出来ない動機と原動力は、ケルビンに奇跡の発見をもたらした。
魔力、工学の両面から探知が困難な材質を探し、研究を重ねたケルビンだからこそ、チョッピ荒野の地下深くに眠る謎の城塞の存在に気がついたのだ。
魔力を原動力とする上に、過剰なまでの攻撃性能。
これを造りこの地に隠蔽したのは、何処の魔王か、はたまた異界からの侵略者か。
だがそんな事は、ケルビンにとってはどうでもいい。危険な古代遺物であろうが、これを転用すればお手軽に秘密基地を建造出来るのだから、使わせてもらうまで。
彼にとってはこの世の全てが面白いか面白くないか、自分の役に立つか立たないか、それだけである。
そして、今の状況は、全くもって面白くなかった。
「…んガ…っ!!?」
プクリポの小さな身体が、床から伝わった衝撃で大きく跳ね上がる。
今日も今日とて、研究に没頭するあまり、硬い石材の床の上で気絶していたらしい。
「何だ!?こんな目覚まし機能をつけた覚えはないぞ!」
文句を叫ぶ間も、繰り返し地下工房にはしる衝撃にケルビンの身体は繰り返し跳ね転がる。
寝不足と不摂生の影響も相まって散々に足を取られつつも、天守閣にあたる管制室へ転がり込む。
「やかましい!」
怒鳴りつけようとも、けたたましく鳴り響くアラートが止まることはない。
コンソールを弾き音量を下げると、地表まで伸ばしている地下工房への入口も兼ねた尖塔の一つ、そこに備えた各種観測装置から送られる情報に目を通す。
「3体のキラーマシン2によるレーザー攻撃…ちっ、骨董品め。やはりレーダーは流用でなく自作すべきだった。キラーマシン2如きのレーザーがこうまで響くものか…」
恐らくは、エネミーデータの不足からくる報告ミスであろう。
地表からの距離と、砂による減衰、そしてこの地下工房、もとい、ギガパレスの外壁装甲の強度からして、この振動は有り得ない。
可能性が高いのはドルブレイブに存在が露呈した事であるが、連中にしては随分と荒い対応である。
兎にも角にも、コンソールから繋がる大画面モニターに地上の映像を映し出す。
「キラークリムゾンだと!?…馬鹿な!!ここはチョッピ荒野だぞ!?」
飴のような光沢を伴う紅の装甲。
それはけしてこんな所に、しかも複数体出現していい存在ではない。
しかし、だとすればこのレーザーの異常な高出力にも説明はつく。
正解に思い至らなかった自分へ舌をうつケルビンを嘲笑うように、一体のモノアイがゆっくりとこちらを観察するカメラを捉える。
次の瞬間、画面は閃光を伴い、ブラックアウトした。再度の衝撃によりケルビンは大きくひっくり返る。
『魔法防壁、80%ヲ消失』
電子音声が淡々と危機的状況を告げる。
「…フフ…フハハハ…何処の阿呆だか知らんが…やってくれたな…フフフフフフ…ハ~ッハッハァ!!!」ケルビンは屈辱と怒りから壮絶な笑みを浮かべてコンソールに向き直る。
「ギガパレス、限界速度で緊急浮上!同時に魔法防壁と浮上に伴う重力制御以外のエネルギーを生命維持装置まで含めカット、それら全てでマダンテカノンチャージ開始!」
『エネルギー循環経路変更…マダンテカノン、チャージ開始』
ギガパレスの中枢奥深くで、失われていた動力源の代わりに据えられた黄金の脊椎骨が輝きを増す。
このままギガパレスの存在を隠匿するメリットは何も無い。
岩石の棺桶でチョッピ荒野に埋まるなど、まっぴら御免である。
「フハハハッ!…ハハハッ…ア~ッハッがっ、ゲホッ、鼻に砂入った、ゲホッ、ハハハハッ!」
喧嘩を売る相手は慎重に選ぶべきだったと、思い知らせてやらねばない。
キラークリムゾンを撃破した後は、この屈辱を計算できない程の倍掛けで返してくれよう。
照明が暗転し、わずかも光の無い制御室の中、急上昇による重力負荷に床へ圧し付けられながらも、ついぞ地上に辿り着くまで高笑いを続けるケルビンであった。
続く