「ん~~~~~~~~~…っとと!」
暗がりのなか、大きく伸びをしたおきょうは、プクリポの小さいその身があわや椅子から転がりそうになり、慌てて端末画面に向き直る。
誰に読ませるわけでもない。
しかしながら、脳内の情報はレポートにまとめ形にすることで理路整然となり、そこからまた新たな気付きが生まれることすらある。
故にこれは、必要なプロセスなのだ。
『型式番号SB-03 固有識別名ハクギンブレイブに顕現したモードレオナルドについて』
モードレオナルドが初めて観測されたのは、ゴルドスパインと大地の箱舟を巡る一件の際だ。
折しもケラウノスによるリミッター解除により、超展開が可能になったことに起因すると考えられる。
そも、ハクギンブレイブのベーススタイル及び超展開の姿は、SB-03のフレームアーキテクチャに刻まれたSBシリーズの基本兵装である邪装に起因する。
しかしながら、モードレオナルドに該当する兵装データは事前と事後の調査、いずれにおいても確認出来ない。
私の開発した魔装についても、主にセ~クスィ~による運用において、イレギュラーな形態は存在する。
しかし、それらアカックブレイブの特異なフォームについては、いずれのケースも事後の調査で理由がはっきりと解明されている。
邪装もまた魔装と同じく機械なのだ。
モードレオナルドについても説明がつかなくてはおかしい。
そも、ハクギンブレイブに関する懸念は、もう一つある。
『今現在、何故稼働しているのか』ということだ。
魂なる物の存在は、科学的に実証されている。
セ~クスィ~からのレポートならびに、冒険者ロマン、マージンらによるエルトナ大陸に現出した幽霊列車を巡るクエストの報告書を紐解けば、当初のハクギンブレイブはハクギン少年の魂により稼働しており、またそれは…シドーレオとの戦闘において自己犠牲行為により失われ、彼の魂は天へと昇ったことが確認できる。
魂による稼働を基礎設計とする以上、ハクギンブレイブはフタバのような人格プログラムコアを搭載していない。
それが何故、現在なお、あれほどまで感情豊かに稼働しているのか。
2つの謎の答えはきっと、同じところに秘められている。
レポートを保存し深く腰掛け直しつつ、タン、とキーを叩くと、ハクギンブレイブの全身映像が立体的に浮かび上がる。
もう一度キーを操作すると外装が取り払われてフレームが剥き出しになり、アストルティアの民に当て嵌めれば心臓に該当する箇所に、赤文字で『UNKNOWN』の警告文が表示されている。
ハクギンブレイブの構造体の中で唯一、解析不能な銀の立方体。
幾度となくアクセスを試みたが弾かれ、解っていることといえば製造後500年は経過しているという事だけだ。
ハクギンブレイブの稼働状況は常にモニターしている。
モードレオナルドへの展開は2度確認され、1度目はハクギンブレイブの制御下にあったが、2度目の際は、居合わせたハクト君との会話記録と、定期検査に託つけたハクギンブレイブへのヒアリングから察するに、ハクギンブレイブではない何者かの意志が宿り、運用されていた可能性がある。
『彼』は果たして、味方か、敵か。
「気乗りはしないけれど………」
おきょうは映像を切ると、サイドボードから一冊のレポートを取り出す。
それは、ハクギンブレイブに対する疑念が膨らんだこのタイミングを見計らったように、仇敵から送られてきたものだ。
『レイダメテスの堕とし仔とメモリーキューブの危険性について』
「………あなたは何を知っているというの、ケルビン」
とうに縁が腐る程の長い付き合いだ、彼が改心することなど起こらないし、まして、ただ単純に協力することなど有り得ないと理解している。
記載された情報の真偽に加えて、このレポートに秘められたケルビンの狙いを解するべく、はらりとページをめくるおきょうであった。
続く