「………って、いか~ん!!」
ヒッサァはついつい、いつものフットワークの軽さで扉を開き往来に飛び出さんとしてしまい、大慌てで宅内に舞い戻る。
かつてヒッサァは白姫の騒動を鎮める為に、アストルティア全土からオグリドホーンを買い集めた。
解決した今なお、何を勘違いされてしまったのか、ゴールドを支払ったわけでもないのにオグリドホーンが送られ続けているのだ。
『ホーンの人』、『オグリド・ヒッサァ・ホーン』、果ては誰が呼び出したか『夜の帝王』。
いつもの大胸筋ならばジャケットの隙間から晒してもよかろう。
しかし今この姿はまずい。
ただでさえ不名誉な二つ名を山と頂戴しているなか、不埒な格好の女性が家から飛び出してきたなんて広まれば、本当にもう自分の名誉は落ちるとこまで地に落ちて、それに飽き足らず魔界までめり込むだろう。
しかしとはいえ、女性用の服装などあるはずもない。「詰んだ…」
さらしの一本でもあればよかったのだが、ラフな服装主体のクローゼットの中身を恨む。
「いや…待てよ…あれなら…」
しばらく呆然と立ち尽くしていたヒッサァであったが、その脳裏にわずかな光明が差し込んだ。
持つべきものは、趣向の尖った友である。
「報酬は現物支給ですぞー」
クエスト終了後、しゅうれんぎを差し出された時は、一瞬、羽根をむしってやろうかと思ったものだが、まさか早速役に立つ時が訪れるとは思わなかった。
赤いベストの下にらぐっちょから渡されたしゅうれんぎを着込み、最低限の身だしなみを整えて、一路黄金鶏神社を目指すヒッサァであった。
「…お~い!らぐっちょさ~ん!!」
長い長い石段を駆け上がり、弾む息のままに遠く見とめた友の姿に大きく手を振る。
「おお?お初にお目にかかります?」
何処か見覚えがありつつも、決定的に違うその姿に、らぐっちょは少し首を傾げた。
「いや、この姿は…」
「ああ、分かっておりますぞ。気合いバッチリでありますなー。ささ、並んで並んでー」
「ええ?ちょっ、あ、どうも、こんにちは」
何を勘違いされているのか、らぐっちょに促されるままに境内に用意されていたステージに登らされる。
集合写真でも撮ろうというのか、そこにはオガ夜会をはじめとして、ヒッサァが平素、警備や運営のお手伝いなどで顔馴染みの面々が集っていた。
「では!リハーサル始めるでありますぞー!さん、はい!!」
指揮者よろしく、ステージ前に立ったらぐっちょが両腕を広げる。
『『ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユーッ!』』
誰か誕生日が近いのか。
なるほど、皆でサプライズの練習中という訳だ。
成り行きではあるが、これは気合を入れて臨まねばなるまい。
ヒッサァもまわりに合わせて声を張る。
『『ハッピバースデーディア、ヒッサァ!』』
「…………えっ?」
自分の誕生日祝いとはつゆ思っておらず、唐突に我が名を呼ばれ驚くヒッサァ。
ボワンと雲が弾けるような音を立てて、ヒッサァが元の姿を取り戻したのは、まさにその瞬間であった。
「あっれぇ!?セクシーなオガコさんが突然ヒッサァ殿になってしまわれて!?これは何かの呪いでありますか!?」
「何が呪いじゃ!逆!逆!!元に戻ったの!!!」
互いに驚かし、驚かされ、段取りも無茶苦茶、完全に予定外の流れとなろうとも、飲み込んでしまうのが友の絆というものである。
かくして、済し崩しに始まった祝宴は、霊峰を明るく照らし、夜遅くまで賑やかに続いたのであった。
~Happy birthday~