その頃、慣れない服装に袖を通す少女がもう一人。
「何か可愛い!気がする!それに振袖と違って動きやすいな!これ、好きだ!!」
自らの機能、邪装のスーツの構成カラーである黒と紺と金を程よく散りばめ、猫耳のニット帽をアクセントに。
厚手のズボンに対し、ふんわりと締め付けの少ないトップス、中のシャツは丈を短くへそ出しとなっており、健康的な色香を漂わせている。
「悪くはないと思うのだが…いささか、破廉恥が過ぎないだろうか?どうなんだ?ケラウノス」
姿見を前にくるくるとはしゃぐフタバの姿を微笑ましく見守りつつも、フタバに姉御と慕われているアストルティアの護り手、燃えるような赤髪がトレードマークのセ~クスィ~は、壁に立てかけられた槍に向かい疑問を投げかけた。
「破廉恥の定義が曖昧である。内部フレームは隠れている訳で、機能的に問題はないと考える」
一角の獅子を模した意志持つ槍、ケラウノスが電子音声で的外れに答えた。
フタバは特殊なカスタマイズを施されたたけやりへいである。
確かにケラウノスの言う通り、機械的な意味で言えば、アストルティアの1種族、エルフを模したその姿が既に『服』と言えなくはないわけだ。
しかしながら、骨を晒すような大胆なファッションはアンデッド系にのみ許される嗜みである。
「加えて疑問提議。アストルティアの服飾関係は、そちらの方が詳しくあってしかるべきではないだろうか?」
「実際に着るかどうかと情報収集は別じゃあないか」ほぼほぼトレーニングウェアでタンスを埋め尽くすセ~クスィ~と、服がどうこう以前に槍であるケラウノス。
機械仕掛けの少女フタバが初めて身にまとうシティ系ファッションに心を躍らせる中、2人の保護者の実のない会話は続く。
「うふふ、気に入ってくれたみたいで良かった!」
そんな外野の意見はともかくとして、フタバの様子を見れば仕事の成否は火を見るよりも明らかである。
無沈着故に劇団員のお下がりなどで繋いでいたフタバにまっとうな服装をと、他ならぬセ~クスィ~に招聘されたデザイナーは、歓びにポニーテールを揺らす。
特異なインパスを操る『どうにかする占い師』ユクは、服飾ブランド『OGADES』のデザイナーというもう一つの顔を持つ。
突如としてアパレル業界に飛び出した新ブランド『DESUZO』の衝撃は、当然、ライバルたるユクのもとにも届いていた。
しゅうれんぎと聖賢者のローブというありふれた素材を見直し、全く新しいムーブメントを巻き起こしたその手腕は、まさしく目からウロコである。
「…兄上も褒めてくれるかなぁ」
あらためてじっと見違えた自分の姿を観察するフタバの様子を、ユクはあたたかく見守る。
DESUZOのブームに売り上げが低迷する中、活路を見出さんと足掻くユクにとって、この度の依頼は自分のデザインの原点に立ち返り、新境地に至るための確かな足がかりとなったようだ。
「兄上、か。自分が気に入るのは勿論、着た姿を大切な相手に見せたくなるような服…基本中の基本だけど、とても大事なことを再確認させてもらったなぁ」
件の兄上とやらは、所属する劇団のドワチャッカ大陸興行で不在であった。
彼のリアクションが見れなかったことは残念だが、足取りも軽やかに自宅へ舞い戻るユク。
「もし。こちらのお住まいは、ヤガミさんのもので間違いないだろうか?」
早速浮かんだデザインをまとめようと意気揚々なその後ろ姿に聞き慣れない声がかかる。
「…へ?」
ドアノブを握ったまま振り返ったユクの前には、夕陽を背負い、不気味に影に覆われた1人のドワーフの姿があるのであった。
続く