「………」
爆音が響き、同時に伝わる振動でパラパラと天井からホコリが舞い散る。
アルファの言いつけがある手前、住民に滅多なことはすまいと思ったのだが、どうにも危うい様子だ。
かつて事務所だった様相を色濃く残す1階には目もくれず、ユク邸の2階に滑り込んだハクギンブレイブは仕事を急がんと手を伸ばす。
ユク邸の2階はヤガミの資料室だったのだろう、図書室の書庫のように、人一人がやっとの通路幅だけを残し、ズラリと本棚が並び、隙間なく書籍が詰められている。
「急がないとまずいな…」
目的の為に鋭敏に研ぎ澄ましたセンサーは、ベータが立て続けに魔造術を発動した気配をも拾っていた。
瞳を閉じ、揃えて伸ばした人差し指と中指で本の背表紙に触れ、そのままズラリと本棚1列をなぞっていく。
接触した書籍、その背表紙に刻まれたタイトルと作者、紙の状態から年数と、そして…
「…!これか」
作者不詳、『恋に落ちた竜』というタイトルに触れたところでハクギンブレイブの足が止まる。
抜き出して開けば、センサーで感知したとおり、ページの真ん中をごっそりとくり抜き作られた空洞に古びた手帳が納められていた。
手帳を抜き取り、ページをパラパラと捲り中身に目を通す。
「…間違いない。さて…しかし面倒なことになったな…」
家主は確かに、この顔を見てフタバと呟いた。
今しばらくの時間、こちらの素性を知る者との接触は避けたかったのだが、まあ、過ぎてしまったことはしようもない。
「…それを言ったら、500年も昔から、今更も今更か」
元を辿れば、計画はずっと前から狂っているのだ。
「アクセス!」
自嘲気味に口元を緩ませると、その言葉とともに少年は深緑の鎧を身にまとうのであった。
起死回生のタロットの爆発を、ヤガミの消息を辿ってちょうど住宅地に辿り着いたミサークとウィンクルムはまさに耳にしていた。
「今のって!?」
ジュレット全土を駆け巡り、ここにも手がかりがなければ諦めようと、最後に立ち寄ったルシナ村にて見つけたボロボロの古い探偵事務所のチラシ。
そこに書かれていた番地と、音の出所は一致する。
「ゴゴ!?」
「あ!ちょ、待てって…!!」
静止の間もなく、兎にも角にも走り出すウィンクルム、彼女を危険にさらしたくないゴレムスとミサークは慌ててその後を追うのであった。
続く