「むぐぐ どうなった?みな ぶじか?」
動力がダウンし、赤い非常灯に照らされた船内、そこかしこから断続的に火花とわずかな煙が漂う中、ずっきんこは目を覚ます。
「うわぁ!またしても ひどいむちうちだ!」
せっかく傷が癒えたばかりというのに、操縦席にいたそっきんこ、どっきんこ両名ともに白目をむいて気絶していた。
しかしながら、前回の教訓を活かし、出発前にシートベルトの指差し確認を行った甲斐あってか、致命傷は免れたようだ。
「ゆるせ。そうきゅうに そとのじょうきょうを はあくせねばならん」
ずっきんこは2人を傾いた船内の壁際まで運び座らせると、土偶型のヘルメットをズボと被せる。
傍から見れば、むちうちという症状にさらにムチを打ちかねない鬼の所業であるが、これはきんこ星人謹製の生命維持装置であって、誓ってパワハラなどではない。
むしろこれからひとり矢面に立ち、船外の様子を確認に出ようというのだ。
上司の鑑である。
『こらぁ!責任者を出せ~ッ!!』
『ちょっとじにー落ち着いて。私もオスシちゃんも怪我はないし…』
外音取り込みをかけるまでもなく、船内には猛り狂った声が響いてくる。
どうやら着陸地点は、アストルティア原住民の家屋だったらしい。
ずっきんこの懐には銀に輝く光線銃がある。
しびれ弾ショットからの、ふういんのダンスで完全に主導権を握り、とどめのブリリアントサファイア………
原住民を制圧することも、あるいは容易いかもしれない。
しかし今回のケース、明らかに非があるのはこちらである。
光線銃と船内の海産物を見比べ、長き逡巡の果てに、ずっきんこは意を決して、その手に掴むものを選びとる。
茅葺き屋根に刺さったままの円盤から、サーチライトのような光が伸びて、ぼやぁっと浮かび上がるようにずっきんこはじにーたちの前に姿をあらわした。
「おさわがせし もうしわけなく おもう。これは おわびのしなだ。イセの あかいムシ!どうだ りっぱだろう!!」
ずっきんこは今日の漁獲高の中からとりわけ大きな2匹をチョイスし、交渉材料として差し出す和平の道を選んだのだ。
せっかく捕まえたイセのあかいムシ、衣をつけて油で揚げ、おうどんに載せたらその美味しさは如何程であろうか。
溢れそうになる唾液を堪えるため、まだ味を知らないのを幸いに、きっとそんなに美味しくないに違いないと自らを誤魔化す。
そう、きんこ星においても、何かしらの宇宙線の影響で肥大化した動植物は味がぼけてしまっていたり、根っこを足代わりにして動き出したり、ろくなことがなかったではないか。
「…ちょっとアンタ!!」
しかし残念ながら、そうまでしたのに鋭い声が返る。交渉は物別れに終わりそうだ。
せめて我が身は犠牲となるとしても、船内の側近たちは見逃してもらわねば…身構えたずっきんこであったが、その先の展開は予測から大きく外れた。
「すごい怪我してんじゃん!?イセエビなんていいから、ちょっとそこの縁台に座って!あ、いや、横になった方が良い?」
じにーはずっきんこの顔面を見るなり、4本に見えるほどばたばた大慌てで腕を振り散らかし、いなりとあげはに助けを求める。
「えっ?私に聞いてる?いやどうなんだろう?その怪我…てか、怪我…なの?」
「何があったらそんな…い、痛くないのかな………?」
「………?」
ぞろぞろと自身に集まる皆の生温かい反応に、ずっきんこもまた戸惑いを禁じ得ない。
「あっ!動いちゃだめだってば!!」
制止の声も気にせず、すぐ裏手に流れる小川の水面を鏡代わりに覗き込む。
「おお これは」
ごろごろと船内を転がったときだろう。
ずっきんこの頭部は、サイコロのように四角く変形していたのであった。
続く