「なるほど。しかし ごしんぱいには およばない」きんこ星人の特異な体質において、これはままあること、イセエビを握ったままの右手を挙げて、ずっきんこは一同をなだめすかそうとした。
「いや心配するってば!」
「そうそう!教会行く?どれくらい距離あるっけ?」「動かしちゃ駄目でしょ?」
肝心のずっきんこの言葉はそっちのけで対策会議は紛糾する。
じにー達は知る由もないが、きんこ星人の身体は粘土質であり、このようなちょっとした変形程度、容易く修復できるのだ。
やれ硬さが何だと言っておいて、ぽきりと折れ砕けるジアなんとかと一緒にしてもらっては困る。
柔軟さこそ、絶対的な正義なのである。
しかし、その切り札とも呼ぶべき種としての優位性を、原住民に明かすわけにはいかない。
あくまでこっそりと、元のぷりてぃな形状に戻らねばならないのだ。
「むう こまったな」
全員が視線を逸らしてくれれば、一瞬でもとに戻せるのだが。
かくなる上は、鉄板の視線誘導テクニックを駆使するしかあるまい。
「あ!あんなところに どうぐかじの ぱぁとにでかける おばちゃんの すがたが!」
びっ!と明後日の空を指し示し、勝ち誇ったずっきんこであったが、通りがかったカラスがカアと鳴くばかりである。
「…やっぱり頭を強く打ってるのかな?」
不憫に思うあまり、あげはの瞳に涙が滲む。
余所見どころか、ずっきんこは余計に哀しげな視線を集めてしまった。
「ばかな なんでみようとしない!?」
きんこ星人ならば誰もが引っかかるテクニックを封殺され、ずっきんこは動揺を禁じ得ない。
「とにかく、中で休ませよう」
「頭を揺らさないように。そっと、そっとね」
なにせ現役のスーパーモデルと、かつてモデルを目指したスーパーセレブである。
長身を誇るじにーとリーネにより、ずっきんこは動揺している間に両サイドから手首を握られ、軽々と持ち上げられてしまった。
「わあ はなせ!はなすんだ さかなのたみよ!はなしてくれえ!」
アストルティア七不思議研究の第一人者、知る人ぞ知るドルワームの学者ドクチョル。
そんな彼の集めた膨大な資料の中、異星人と思しき存在とのファーストコンタクトの様子をおさめた1枚の証拠写真よろしく、誰が名付けたか、通称ロズウェルスタイルで宅内へと連行されてしまうずっきんこなのであった。
「そこの座布団に座って」
「そっと、そっとね…って、あれ?嘘でしょ…?」
慎重に運び込み、じにーとリーネがずっきんこに向き直ると、まるで嘘のように丸みを帯びて、ドワ子然としたずっきんこの頭がそこにはあった。
「…あれ?確かに…形が…」
「見た…よね…?」
「………うん…?」
それぞれの面にお題でも書いて転がし、トークの華を咲かせそうだった形状は、今や見る影もない。
「エリアチェンジしたからな。もとに もどったのだ。…おっと いまのことばは わすれてくれたまえ。きみたちには まだはやい」
キャトルミューティレーションされてしまうのではないかと取り乱したものの、この展開はずっきんこにとっては願ったり叶ったりである。
危うく、大宇宙の真実を開示しかけてしまったがそこもさりげなく流し、残る懸念は謝罪交渉のみである。
「さあ あらためて。われわれの しゃざいを うけいれたまえ!」
ずっきんこはここぞとばかりに、ダブルピースの姿勢で2匹のイセのあかいムシを再び献上する。
この段になってじにーたちもようやく、諸々の違和感を覚え始めた。
屋根に突き刺さったクラシカルな未確認飛行物体、噛み合わない会話と一般常識、そして何よりも、ずっきんこの顔面にみなぎる圧。
思い返せばここまで瞬き一つしていないつぶらな瞳に、今更ながらゾクリと悪寒を覚える一同なのであった。
続く