霊感というものは、得体が知れず実証する術もないが、確かに存在する。
らぐっちょが神主をつとめる黄金鶏神社、やむをえぬ事情で先々のご利益を使い果たし、回復の途上である事はらぐっちょ本人と一部の近しい冒険者しか知り得ぬことである。
しかし、昨今らぐっちょの頭を悩ませている参拝客の著しい減少が、まさしく霊感なるものがアストルティアの民に広く備わっていることを物語っている。
曰く、何となく有り難みがない。
空気が淀んでいる気がする。
手水舎の湧き水がぬるい。
おみくじを引いたらパーティ全員大凶だった。
などなどのありがたいご意見がどしどし寄せられ、このままでは黄金閑古鳥神社に改名する日も近い。
そんな状況下での貴重な参拝客を前に、らぐっちょは至って平常運転であった。
「おおっ、ナイスバ…あ、いや、なんとも麗しいお姉さまー!?」
「………この生臭め。やはりここを頼ったのは間違いだったか…」
ゴミを見るような高圧的な視線で、金髪のオーガは遥かに背の低いらぐっちょを見下ろす。
初手を誤ったのは事実であるのだが、それにつけてもあまりに敵意剥き出しな様子には、流石のらぐっちょも寂しさを禁じ得ない。
「あ~…らぐっちょさんに悪気はないんです…ホントに」
らぐっちょの隣に立つヒッサァから見ても、件のオーガの瞳に宿る険は異常だ。
長年に渡る因縁、もしくは、親の仇とでも言わんばかりである。
そしてそれに対し、おずおずとその後ろから顔を半分だけ覗かせる透き通るような白い肌の少女は、明らかな思慕のこもった視線をらぐっちょに向け、頬を赤らめてすらいる。
温度差で風邪を引いてしまいそうだ。
そして、何よりも気になるのは………
(角、だよなぁ…)
降り注ぐ稲妻の如く、細いが力強さを感じる二本の角が金髪を貫き、かたや、いたいけな少女の方も、こめかみの辺りから太ましく枝分かれした角が覗く。
オーガであれば角はあるもの、しかし、明らかにオーガのそれとは毛色が異なるのである。
そして不思議なことに、初対面の筈のこの二人に、どこか見覚えがある気がする。
小首を傾げるヒッサァよりも先に、既視感の答えに辿り着いたのはらぐっちょの方であった。
「まさか…」
らぐっちょの脳裏に、りゅーへーを引き取りに現れた荘厳な金色のしんりゅうの姿が浮かび、眼の前のオーガの女性とオーバーラップする。
「ようやく分かっ…」
神職だというのに気付くまでに時間がかかりすぎ、しかしながら見抜くとはやはり腐っても神主かと、仮初の姿に変化しているしんりゅう、アキバが僅かに見直した瞬間、らぐっちょのくちばしからまたも失言がほとばしる。
「義母(おっかぁ)さまでいらっしゃいますかの~!?」
言葉のチョイスが、致命的にいただけない。
「誰が貴様の義母か!」
らぐっちょの言葉のぬめりを嗅ぎ取って、お仕置きの雷が天より降り注ぐ。
「ェ…るちキ…ッ!?」
義母様発言に身の危険を感じ、すっと素早くらぐっちょから遠ざかっていたヒッサァの瞳には、雷光の中、それはそれははっきりと綺麗に整った鶏ガラのシルエットが映しだされるのであった。
続く