出会いがあれば、別れがある。
家に帰るまでがクエスト、片付けを終えるまでがバーベキュー、皆で仲良く作業を分担し炭の処理も終えた後は、名残惜しくも、奇妙な隣人、ずっきんこを見送るときが訪れた。
「すっかりごちそうになった!しゅうぜんひは かならずよういする。くびをあらって まっていたまえ!」
ずっきんこによる用法用量の著しく間違った発言が、翻訳機のトンチキっぷりが原因であるなどとは知る由もないが、つくづく突っ込んだ先がじにーの所で良かったと一同は思った。
皆が手を振り見守る中、ずっきんこはスイーッと円盤から降りてきた光に吸い込まれるように船内へ消えていく。
「…さ、私たちも帰るとしますかぁ」
「楽しかった~!あ、梅干し出来たら、絶対に呼んでよ?独り占めは許さないぞ~!!」
「梅酒もね。今から楽しみだわ~」
「わ~かった!わかった!心配しなくても独り占めなんてしないって!!」
馬で帰るいなり家三姉妹と、あげはをドルバイクで駅まで送迎するリーネを送り出したじにーは、ふと、円盤がまだ飛び立っていないことに気づく。
「…およ?」
見上げた鈍色の円盤の中で、惨劇が繰り広げられていようとは、誰が予想できたであろう。
「あ!おまえたち!すっかりわすれ…モガモガ」
海産物を積み下ろす際も外部からのリモート操作で顔を合わすことがなく、ずっきんこは部下たちの存在をうっかり失念していたのだ。
思わず飛び出した言葉、両手で口を塞ごうとも、大半が漏れて完璧に手遅れである。
モニターに映るは、仕事を終えてすっかり伽藍洞になった庭のバーベキューコンロ。
宴の様は、意識を取り戻した2人に見事に筒抜けであったらしい。
未だ生命維持装置を被ったままのそっきんことどっきんこの眼差しが、ずっきんこに鋭く突き刺さる。
「オイシソウ デシタネ」
「ウラヤマシイナア ワタシモタベタカッタ」
生命維持装置を介している為、部下からの言葉はいつにもまして無機質に包まれて、怒りと悲しみと羨望、あるいはそれら全てであろうが、ようとして感情が窺い知れない。
「おちつけ おちつくんだ。はなせばわかる………ぬわーーっっ!!」
タコを手に乗せ、うねる触手とともににじり寄る部下たちの顔圧に、遂には壁際まで追いやられたずっきんこの断末魔が山奥に響き渡る。
「何か今聞こえたような…あ、飛んでった。道中気をつけて~!!」
船内の諍いなど知る由もなく、不規則な軌道でゆらゆら去りゆくきんこ星人の円盤に向かって呑気に手を振るじにーなのであった。
「というわけで なにかおねがいしたい」
飲まず食わずの部下たちはもちろん、夕刻になれば再びずっきんこの腹も減る。
じにーの住まいから飛び立った後、きんこ星人の円盤はアストルティア侵攻前線基地…ではなく、おばちゃんことピッピンコの自宅前に停泊していた。
「あれどないしたん?赤い言うてもなんやえらい予定とちゃうモン漁ってきたんやなぁ…ってあ~あ!吸盤ひっ付いてもてるやんかも~!じっとしとき、よっこいしょ!」
まるで串団子のように、ずっきんこの顔面に足を絡ませ乗っかっていた2匹のタコをピッピンコは背伸びして引き剥がす。
その毛並に濃い目にはたかれたファンデーションの甘ったるい香りが、ずっきんこの鼻をくすぐる。
「ちゅうちゅうタコかいな~ちゅうて、えらいピンピンの活けやからちゅるっとお造りでもええねんけんど、やっぱりたこ焼きにしよかー。あんたらくらいの歳の子ぉやとたこ焼きのほうがええもんな?なあ!ちょっとそこで飴ちゃんでも舐めて待っとき!」
こっそりおこぼれで晩酌のお供のタコわさも作ろうとしているのは内緒である。
何処から取り出したのか、恐ろしく慣れた手付きでロリポップキャンディの包みを瞬く間にペリペリとめくり、カッポンと小気味良くずっきんこ、そっきんこ、どっきんこの口にそれぞれ突っ込むと、ピッピンコはパタパタと台所へと消えるのであった。
こののち、きんこ星人に空前の粉物ブームが訪れるであろうことは、言うまでもあるまい。
続く