行く手に立つヒッサァとらぐっちょを見定めてか、サージタウスの行軍が止まる。
「やあやあ、せっかくのご来訪痛み入りますが、神馬なら足りているのですぞ。ぶぶ漬けでも如何ですかのーーー!?」
返答はなく、たった2人を相手にするには贅沢が過ぎる本数のおびただしい数の矢が、サージタウスたちから撃ち出された。
「ひーーー!?よもや機械の心に高等な挨拶が通じるとは!?」
「いきなり喧嘩を売るやつがありますか…!」
射程外に逃げ出すことは不可能、ならばと、ヒッサァは右往左往するらぐっちょの前に歩み出て、背負った槍を抜き放つ。
「ぬ…ぅん!!」
帳を下ろすが如く、ぶぅんと空を袈裟に薙いだ槍が風圧の盾を作り出し、ヒッサァとらぐっちょへの直撃軌道を描いていた矢を吹き飛ばす。
どういう材質をしているのか、弾かれなかった矢はそのままに石段を差し貫き、あたりはススキの生い茂る原と見紛う様相に成り果てた。
第2射に備えるヒッサァであったがその様子はなく、真っ直ぐ海を割る如くサージタウスの群れの中央が開き、奥から白髪の女が1人、ゆっくりゆっくりと石段を登り来る。
「…ぶぶ漬けが、そんなにお気に召しませんでしたか?黄金鶏神社のぶぶ漬け、悪くないですよ」
嫌味はともかく、社の名の通り金色に見える鶏ガラの出汁とシンプルに小口切りのネギのみの茶漬けは絶品なのだ。
相手とは初対面、だとは思う。
肌の色、肩に角がないことから察するにドワーフ、しかしヒッサァに匹敵する体躯、過去に見えていれば忘れるはずもない。
しかしだとするとこの凄まじい殺気、何に起因するというのだろう。
「ベータ。下がれ」
「しかし!あいつは…!」
ヒッサァもまた、メモリーキューブと共闘し、兄弟を破壊した憎き相手である。
「…下がれと、言った」
アルファの声音に含まれる確かな怒気に、ベータは慌てて姉に道を開けた。
そうして、こちらは如何にもドワーフ然とした、そしてベータと血の繋がりを感じさせる顔立ちの女が姿を見せる。
「すまない、妹が失礼をした」
察するに、矢を放つよう指示したのは一歩下がるもこちらを睨み続けている妹君なのだろう。
「失礼はお互い様です。どうかお気になさらず」
らぐっちょの挑発的な発言だけでなく、ヒッサァもまた、いつもの社交的な笑顔で槍を構えている。
気に病む理由は、まさしく互いに無い。
「こちらの要件は察しがついているかと思う。この上は、出来れば穏便に済ませたいが?」
その実、どちらに転んでも構わない。
裏が透けて見える程度には、アルファの言葉は無機質であった。
それはすなわち、腹の探り合いをしに来た訳ではないということだ。
誤魔化しは効かないだろう。
アキバとりゅーへーの所在に敵は確信を持っている。「…らぐっちょさん、いきますよ」
再び問答するにも、こちらの威を示さねば、切り口がない。
らぐっちょに目配せし、ヒッサァは先行して走り出すのであった。
続く