「それではあらためましてアブソリュート霊、ファイヤーー!!!…ですぞっ」
間髪入れず、らぐっちょは向かって左手の一群めがけ、トリガーを引き絞った。
アキバの力の影響を受けてか、稲光を伴った極大の奔流がアブソリュート霊の銃口から迸る。
「うっひょーーー!?」
いつもの感覚を頼りに、これでもさらに加減をしたはずであった。
「………無駄遣いをするなと云うに…」
ごっそりと力が切り取られ、重くのしかかるような疲労感にアキバは眉をしかめる。
しかしながら、敵総数の3割近くを一息に薙ぎ払ったことは、この状況に大きな進展をもたらしたように見えた。
「………こういう真似は好みませんが、私達には交渉の札が他にない。アキバ様を解放し、お姉様共々、ここは退いてください」
武器を一つアキバの拘束に割かれている状況で、目の前のヒッサァが立ち塞がるこの道を押し通る隙に、容易くらぐっちょはアブソリュート霊を放てるだろう。ベータはアキバの意識を奪っておかなかった事を悔やむが、今更、詮無きことである。
らぐっちょとて、ヒッサァが述べたように、人質をとるような真似は本望ではない。
己の矜持と、アキバとりゅーへーの安否とを天秤にかけ、ヒッサァの策に倣いアブソリュート霊の銃口をアルファ率いる残りのサージタウスへと向ける。
これで五分と五分までは巻き返せた。
らぐっちょとヒッサァの安堵を裏付けるように、アルファは短く嘆息すると、頭を垂れる。
しかし、僅かな後にらぐっちょに向き直ったアルファの口元には、三日月のような嘲笑が浮かんでいた。
「易くなった。礼を言うぞ………なにも、当人を連れていく必要はない。ただ神気のみ、あれば良いのだ」「…なにを…え…?」
アルファの真意を理解できないうちに、手中のアブソリュート霊の銃口が光を発し始め、らぐっちょは困惑する。
「らぐっちょさん!?」
「いや、アブソリュート霊が勝手に…!?これは…っ!?」
らぐっちょは勿論、ヒッサァとて、実際にこれ以上アブソリュート霊を撃ち放つ選択肢は無かった。
意図せずして再びの閃光、辛うじてらぐっちょが砲身を傾け、明後日の空を目指して放出されたエネルギーはしかし、宙で不自然な弧を描く。
「姉さまッ!!!」
魔造術を解除、というよりは動転のあまり術を保てず、アキバとりゅーへーを投げうって、さらには呆然とするヒッサァを押し退けてアルファの盾にならんとベータは走るが、もはや間に合うものではない。
やはり立ち尽くすらぐっちょの背に手が届くよりも早く、引き寄せられるような動きを見せたアブソリュート霊の奔流は、アルファへと直撃するのであった。
続く