着弾と同時、大爆発を起こしたかのように、アブソリュート霊から繋がる光の帯がのたうち回る。
それはまさしく大蛇の断末魔の如く四方八方にくねり、石段を抉りながらも、ついぞアルファを貫くことなく、その手に掲げられた透明な宝珠へと吸い込まれていった。
球体に納まってなお、その内で金色の奔流がぐるぐると駆け巡る様が、ヒッサァの位置からも見て取れる。
「姉さま!!お怪我は…」
状況を理解できず立ち尽くすらぐっちょの隣をもすり抜け、ようやくアルファのもとへとベータが辿り着くと同時、パンと乾いた音が響いた。
アルファがベータの頬を張ったのだ。
「母を呼ぶ声に動揺したな。何を今更…この私がどれだけの親を、子を、あるいは諸共に踏みにじって来たと思っている?」
「………それは…」
「挙げ句、みすみすしんりゅうを手放すとはな。神気があれば最低限は良いが、アレには他にも利用価値があったというのに。いいか、何度も言ってきたが、何事も巨視的に捉えろ。私は…」
…いずれ、お前の傍から居なくなる。
自身とメモリーキューブのみがしるマスタージェルミの復活の帰結を、怒りにかられていたとはいえ、うっかり口走りそうになりアルファは口ごもる。
「いつも言っているだろう。一にお前の身の安全、二に素材の確保、私の心配など、五でも六でもいい…お前さえ無事ならば、何も問題はないんだ」
「………はい…姉さま…」
「分かればそれでいい」
言葉を取り繕ったあと、アルファはなだめ慈しむようにベータの肩を撫でると、宝珠を懐にしまう。
そのままにらぐっちょ達へは一瞥もくれず、アルファとベータは残存するサージタウスを率い、参道を下っていく。
「…残るピースはあと一つ。『しょうかん』の使い手は、今何処か…」
1体だけ一際兜飾りの立派なサージタウスに跨がると、アルファは瞳を閉じた。
そのまぶたの裏に、遥か遠く、計画の最後のピースを監視する任にあたる魔法生物の視界が映し出される。
海を跨いだ遥か先、ウェナ諸島の街道の一つに、しらふじの波が揺れていた。
「も~~~っ、そろそろ機嫌なおしてよ~、モモ!しょうがないじゃない、貴方ちょうど休眠期だったんだし。ね?」
スライム柄のパーカーにミニ丈のプリーツスカートと厚めデニールのニーソ、髪には大きめのリボンを頂き、その全体を黒を基調としたシックな色合いでまとめた、秋も深まり近付く冬の気配を感じる今の季節感に相応しい装いである。
けして低くないヒールであれ、かつての馬車の往来で荒れ、修繕されないままの石畳の上を事もなく歩く様は、彼女もまた一端の冒険者である故の体幹の良さを物語る。
少女は、その隣でくちばしを尖らせ、そっぽを向いてふわふわと浮かぶ毛玉を何とか宥めようとしていた。毛玉の姿形は、超一流の天地雷鳴士のみが使役する幻魔、シュジャクに似るが、少女、あげはの髪と同じしらふじの毛並のものは記録にない。
それもそのはず、モモと呼ばれたその毛玉は幻魔ではなく、あげはによって『しょうかん』された精霊なのである。
かつてあげはは、レンジャーを修めたのち天地雷鳴士を志し修行に励んだが、残念ながらその道には適していなかった。
しかし、得たものもある。
それこそが、今や失われた『しょうかん』の御業である。
幻魔の召喚が異世界から対象を呼び寄せる術であるのに対し、その前段階にあたる『しょうかん』は大気中に散っている魂を寄せ集め、生前の形を与えるという違いがある。
幻魔召喚は身につかず、そして『しょうかん』にしても不完全であったあげはは、術を補うために自らの髪を触媒とし、結果、彼女の髪色と同じ毛並をもつ精霊を顕現させるに至る。
そうして出逢い、モモと名付けられた精霊は、髪を依り代とした影響か、超自然的な存在でありながら完全に受肉を果たしており、以降、あげはとモモは、冒険者と仲間モンスターのような共生関係にあった。
「ちょっと!笑ってないで、じにーも一緒に謝って!」
「ブ…ッ!えぇ!?こっち来る!?」
連れ合いはもうひとり。
親友とその相棒の痴話喧嘩をつまみに、ジャスミンティーなんぞを優雅に啜っていた銀髪のウエディは、突然の参戦要求に喉を詰まらせる。
「それはそうでしょ!!」
当然の切り返しに、とりあえず殊勝な面持ちで首をすくめるじにーなのであった。
続く