そして、本題である。
ハクギンブレイブに関してつづられたページを終えてなお、ケルビンのレポートにはまだ厚みが残されている。
「………おきょう、これは事実なのか?」
続く内容に目を通し、テーブルにレポートを放ると、セ~クスィ~はドサリと椅子に身を投げ天を仰ぎ見る。
『レイダメテスの堕とし仔』、その首魁の当面の目的は、グランドラゴーンの復活にある。
そも、斬り落とされた首、その頚椎を用いたものがゴルドスパインであるのならば、当然、頭骨も現存して然るべきだ。
ドルブレイブが如何に調査、探索を行っても見つからなかったそれの在処を、よもや、仇敵であるケルビンから知らされようとは。
「…およそ100年の周期、地脈の影響で封印の弱まるタイミングで現れる特異な夢幻郷。過去の文献にも確かに、該当する時期、普段は観測できないはずの地から、平素より色濃い夢幻郷が確認されている記述を見つけたわ」
考えるべきだった。
仮に夢幻郷が蜃気楼の産物であるとして、ならば、そこに映し出された虚像には、必ず元がある。
ケルビンによれば、それこそが、グランドラゴーンの封印の地であるという。
『レイダメテスの堕とし仔』の目論見通り、グランドラゴーンが再び受肉を果たせば、フタバとケラウノスに内包されたゴルドスパインは本体たるグランドラゴーンに吸収されるか、はたまた、それを礎に第二、第三のグランドラゴーンとして覚醒するか。
グランドラゴーンの復活の可能性を考慮し、SB-028ならびに随伴支援兵装ケラウノスの即刻廃棄すべしとの結論にて、レポートは締められていた。
「………歯に衣を着せても仕方ないから、言うわ。そのレポートに基づいて、フタバちゃんとケラウノスちゃんの擁するゴルドスパインの再検査を行い…」
一度区切って、おきょうは深く大きく息を吸う。
不本意であるが、自分が言わねば、自分がやらねばならぬと、あらためて決意を固める。
「状態によっては、問題が解決するまで、フタバちゃん、ケラウノスちゃんの凍結封印も視野に考えている」
「………」
おきょうとて、それを望んでいるわけではないことは、誰よりもセ~クスィ~が知っている。
おきょうが慎重であるからこそ、その分、自分は無茶が出来る。
故に非常な提案にも、セ~クスィ~は握り拳を固める程度でこの場は反論を飲み込み、何よりもフタバとケラウノスを救うためにこそ、劇場までドルブレイドを走らせたのであった。
かくして、劇団の皆に断りを入れたあと、意識の戻らぬフタバを連れ帰り、事前に準備万端整った計測機械群により、今しがたコンディションチェックが完了したというわけである。
「行方知れずのケラウノスちゃんはともかく、フタバちゃんに関しては当面、大丈夫でしょう」
おきょうがモニターに目を向ければ、左右に分かれ2種の何かしらの成分表示が映し出される。
「今、フタバちゃんの体内のゴルドスパインは、未知の物質にコーティングされ、機械的、電気的、魔力的、如何なる観点からしても完全に外部と遮断されている。いわば、そこには存在しないというレベルで、徹底的に。これなら、心配は要らないわ」
「…未知の物質であるのにか?」
「未知だけど、同じものを知らないわけではないの」成分表示のスクロールが終了すると同時、画面中央には『100% MATCH』との整合結果が浮かび上がるのであった。
続く