ハクギンブレイブは、密かにケラウノスがハクギンブレイブのコンディションデータを逐次ケルビンのもとへ送信していることを知らない。
「うっ………」
赤く染まり、警告表示の無いところが無い全身図を前に、今、親友の身体を苛んでいるであろう激痛を想像してしまい、ハクトは込み上げる吐き気を堪えた。
僧侶であったなら、きっと匙を投げていたに違いない。
これはもう、治療の範疇を著しく踏み外している。
「諦めろ諦めろ!この我輩が無理だと判断したのだぞ?実に無駄な時間だ!!」
ケルビンの声はハクトの頭上から降り注ぐ。
あくなき騙し合いの末、辛くもケルビンを拘束したハクトは、縛り上げたその身をミラーボールよろしく天井から吊り下げていた。
もっとも、その気になれば抜けることは容易いだろう。
単純に、ハクトとの小競り合いに飽きて、ものは試しと気紛れに捕まってみたに過ぎない。
ハクトもそれを理解しているからこそ、ケルビンの気が変わる前にことを終えんとキーボードを叩き続ける。
古代魔族の因子を用いた強化薬液に、ケラウノスの開発遍歴、メタルソウラから改修を経てゴルドブレイブに至り、さらには果ての竜機械への構造転換と戦闘データ、他にも、父マージンがフィズルと共に対峙したという、ドルセリオンを鹵獲し強化合体した姿を見せたドルバリオン………
相手はアストルティアの平和を乱す敵ながら、幾度もドルブレイブを追い詰めたその技術の粋を目の当たりにし、ハクトは舌を巻く。
しかし圧倒されている場合ではない。
協力を仰ぐ際、ハクギンブレイブはハクトにただ、妹のフタバを助ける為に必要なことだとだけ告げ、詳細は語らなかった。
アカックブレイブを頼れない理由も、モードレオナルド発動の際に命綱となるメモリーキューブを放棄した理由も、今このような身体の状態でも基地に戻らず、何処を目指しているのかすらハクトは知らない。
チームに犯罪者であるケルビンを含むため、あくまで巻き込まれたのだと言い訳できるよう、仔細は語らないとハクギンブレイブは言った。
それは確かに一因であろうが全てではない。
ハクトを危険に巻き込まないよう、慮ったのであろう。
冗談ではない。
あのラギ雪原にてシドーレオと相対した時、親友ハクギンを失った、いや、助けられなかった無力感は今でもハクトの心を苛んでいる。
今のハクギンブレイブは、そのハクギンの忘れ形見である。
2度も、親友を失って、たまるものか。
だから、形振りなど構わない。
技術は技術、善も悪もないのだ。
ハクギンブレイブの助けになるのなら、ケルビンだって利用する。
そこまで腹を括ったハクトだからこそ、ケルビンの言動にある違和感を覚えるのであった。
続く