ハクトは相変わらずモニターをがんと見つめながら、ケルビンお手製の携帯食を一口かじる。
種々のドライフルーツと腹持ちの良いナッツ類を細かく刻み、脳の燃料に欠かせない糖蜜で固めた雑な代物であるが、今は一分一秒が惜しい。
脳の回転をトップスピードに維持しつつ、ケルビンに覚えた違和感の正体に考えを巡らせた。
「無駄無駄…いい加減諦めろ」
今もなお、足をバタつかせくるくると回るケルビンからは、絶え間ない野次が飛び続けている。
そこには何故か、確かな苛立ちが含まれているのだ。
さして長い付き合いでもない。
しかし言葉も剣も交じ合わせれば、そのひととなりは嫌でも分かる。
徹頭徹尾自己中心的で、この上ない享楽主義。
ケルビンにとって、今関心があるのはレイダメテスの堕とし仔たちの行動の結果であって、ハクギンブレイブの命はどうでもいい筈なのだ。
まして、縛られ宙吊りにされたことに対して喚き散らすこともない。
………らしくない。
ケルビンの様相から考えられる答えは一つ。
彼は既にハクギンブレイブの問題の解決策を見出している。
しかしそれはきっと、ケルビンにとって不本意極まりない方法であるが故に、勝手にプライドが傷付いて腹を立てている。
不本意、つまりそれは、おきょう博士の開発した技術か…それとも、もしかして…
「………そうか!」
如何にもな間をためてから、顎に指をあててハクトはぽつりと呟いた。
こうも直接的な苛立ちをぶつけてくるのだ、きっとそれは、ハクト自身にも関わる何かに違いないが、しかして答えには思い至らない。
であれば、ケルビン自ら語らせればいい。
「チッ…気付いたか」
ここまで見事な舌打ちを聴くのは、セ~クスィ~が父マージンに向けて放ったものをおいて他にはない。
「こんな単純な話だったなんて。でも貴方も人、いやプクリポが悪い。そ~んなに悔しいですか?」
責めどころを掴めば、こうも御し易い相手もそうはおるまい。
ハクトはケルビンの自尊心にかりっと爪を立ててやる。
「導き出した結論が、既に既出の技術であった。かと言って、我輩の頭脳をもってしても代替案が浮かばん。これほどに、不愉快な話があるか!」
一度、堰を切ってしまえば、あとは転げ落ちるようにペラペラとケルビンは喋りだす。
「問題は至ってシンプルだ。内部からの圧力に耐えられない。ならば、外部から抑え込めばいい。あの特殊な形態、モードレオナルドの上に、鎧を重ねることでな」
鎧を、重ねる。
ここまで噛み砕いて言われれば、嫌でも分かる。
「………『ナイアルウェポン』」
「そう…貴様の発明だ」
ケルビンの返しを待たずして、ハクトの瞳はぐりんとモニターのあちこちを捉え、キーボードを叩く指はまさしくアラクネの手脚のように絶え間無く動く。
勿論、ナイアルウェポンそのものはブレイブジュニアスーツ専用の装備、そのままでは駄目だ。
ハクギンブレイブに、そしてモードレオナルドに合わせて、一から設計を起こさねばならない。
ベースとなる武器形状から、内圧に耐えうる素材の選定、鎧としての装甲レイアウト…一つとしてミスは許されない作業だ。
むしりと携帯食をもう一口齧り取る。
ハクトの静かなる戦いは、ようやく今、真に幕を開けたのであった。
続く