「さすがのお前さんでも爆弾を使おうとは言い出さんのだな」
レンジャー協会から許可を得、モリナラ大森林の一画にてフツキとマージンは斧と鋸を振るっていた。
「間引く目的ならともかく、どうやったって繊維に沿って衝撃が伝播しちまって亀裂がはしる。そうなったらもう使い物にならんからな」
付き合いの長いフツキからしても意外な返答に、しばし作業の手も止まる。
マージンにとって、爆弾は手脚の延長線上と言っても過言ではない為、大抵の事象には爆弾で対処する。
しかしそれは、さすがボムスペシャリストというべきか、普通そうはならんやろ、という作業であれ爆弾を用いるのが最大効率となるからであって、極めて数少ない例外も存在するのだ。
「…しかしだ。いつかは実現したいと考えている。例えばフィズルのおっさんの時間逆行装置とか、バウム先生に部分的に物質の時を止める呪文を開発してもらうとかだな、他にも………」
しまった藪蛇だった。
こうなったマージンは止まらない。
まあ、いつも通りだ。
いや、爆弾の後始末がない分、むしろマシだと言える。
「よっし!続きやるか」
フツキが姿を消したことにも気付かず、木の枝で何やら計算式を地面に描き始めたマージンを残し、一人で斧を振りかぶるフツキなのであった。
「ええと…これで街の分は揃ったな。あとは…」
しばらくしてようやく帰ってきたマージンを加えてさらにひと仕事、ようやく終わりが見えてきた。
「Exteのライブ会場用だな。あれなんかどうだ?」
「お、いいね」
先程までに比べてやや小ぶりなそれを選び、最後の一踏ん張り、鋸をひくフツキとマージンであった。
「お疲れ様」
「お、サンキュ、ティードさん」
「ありがとうございます」
なかなかの重労働であった、それ故に作業中は寒さを感じなかったが、一息つけば今が冬なのだと思い知らされる。
切り株に腰掛け、差し入れのホットコーヒーで暖を取る。
「仕事納めには最高じゃない?夢があって」
グレン、ガタラ、ジュレットにアズラン…
1本、また1本と伐採したモミの木がバシっ娘たちにより運ばれていく。
「そうですね、ティードさん。珍しく鼓膜も痛くない。来年も、ずっとこうだと良いんですが。それじゃ、お二人さん、また」
最後の一本が空に舞うのを見届けると、背を向け手を振り家路につくフツキなのであった。
続く